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君無き世界(倉庫)

イチウリ妄想暴走日記へのご来訪、ありがとうございます^^

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『 Boys Don't Cry 3 』 一護視点




                            


                                              一護視点





 ─────無我夢中だった。


 こういうのを、『振るいつきたい』 という衝動なんだろうか?
 石田の抗議も拒否も、何処か遠くで鳴ってるサイレンのようで現実味がなく、今はただ、その唇を味わい、貪りたい。それしか頭に無かった。
 逃げようとするのを追いかけて、追いかけて。
 軋むほど強く蝶番を押さえて歯列を開けさせ、舌を差し込み、俺は石田を蹂躙した。
 考えるよりも先に体が動き、自由にしてやりたい気持ちと食らい尽くしたい心とがせめぎ合う。
 本能が理性を凌駕し、石田と心も体も繋ぎたいという本心が剥き出しになる。
 キスについて具体的に想像した事はなかったが、石田とのそれは柔らかく、甘く、俺が今までに感じた事がないくらい美しいものに思えた。残酷なほどに・・・・・・・・・。


 こんな事が出来る自分に、心の隅で驚く。嫌がる相手を無理矢理、理不尽に力で押さえつける。
 男とか女とか関係ない、卑劣な行為だ。分かってんのに止められない。


「石田・・・・・・・好きだ」


 俺は石田の耳もとで吐息のようにそう告げる。
 だがそれを払いのけるかのような冷たさで、石田は拒絶した。


「この体勢で言うか?最低だな。僕が女の子じゃなくて良かったよ。好きとも何とも思ってない男にこんな事されたら、たまらないよ・・・・・・・・」
「お前にしかしねえよ、こんなヤバい真似」
「────僕にもするなっ!」


 や、まあ、そうなんだけど・・・・・。
 何て言うか・・・・・・・離し難い。ホントはこんな風に力尽くじゃなく、石田に触れたい。
 でも絶対触らせてくんないよな、俺が普通にお願いしても。


「・・・・・・黒崎、手を離せ。まずは落ち着こう。君も、僕も」


 落ち着く・・・・・俺、今そんな動揺してっかな?苦しくて、よく分からない。
 掴んだこいつの手を離したくない。失くしたくない。
 石田の白く滑らかな、形の良い指・・・・・・・・・・。


「わ───っ!!舐めるな!指を舐めるな!気持ち悪・・・・・・・黒崎ィィ!!」


 抵抗が強まり、更に押さえつける。石田が痛そうに小さく呻いた。
 俺は石田の顔を見た。傷つけたい訳じゃない。なのに、何やってんだ?俺は・・・・・・・・。
 石田はひどく悔しそうな、裏切られたみたいな眼で俺を見て、言った。


「これ以上の行為に及ぶなら、僕も自分の身を護らなくちゃならなくなる。もう一度言う。手を離せ。そして落ち着いて話そう。僕は・・・・・・逃げたりしないから」


 石田の言葉に、やっと理性が追いついた。
 俺は石田を縫い付けてた自分の指を離そうとするが、強張っていて上手く解けない。
 それでも懸命に指を外すと、石田の手首が鬱血してるのが見えた。
 仕出かした事の重大さに漸く気付き、青ざめる。


「石田、悪い、俺・・・・・・・・・・・」
「君が正気に戻って良かったよ。もしこれを使う羽目になったら君は自業自得として、密着状態の僕まで大怪我をする所だった」


 そう言って石田が銀筒をかざす。
 持ち歩いてんのかそれ?あれだろ?何か爆発するやつ・・・・・忍者みてえだな。
 まあ、石田が大怪我しなくて済んで良かったけど。いや俺も命拾いしたけど。


「まずは体に戻れ。そして場所を移そう。お腹が空いた、ファミレスで何か奢れ黒崎。」
「へ?いや、えっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。・・・・・・・あ、ちょ、ちょっと待て・・・・・・・・・・」
「何だ?」
「治・・・・・・・まるまで、もうちょ・・・・・・・・・・」
「治まる?何が?」
「いやアレが・・・・・・・・・」
「────っ!!」


 石田の見事な掌拳が俺の顎に炸裂した。死神の体だったけど、ちょっと気が遠くなった。
 やっぱこいつと生身で喧嘩、ぜってーしねえ・・・・・・・・・・。





 ファミレスで石田に遠慮はなく、こんなに食うのかってくらい注文しやがった。
 これ全部俺の奢りなんだよな?致し方ないとは言え、今月は懐が苦しくなるな。
 しっかしその細い体のどこに入るんだ?胃ィ壊さねえか?大丈夫か?
 俺も一応、ギリギリ間に合ったランチを頼んだけど、こいつ食うの遅ェから手持ち無沙汰で・・・・・・・見るともなしに石田の食事風景を眺めてしまう。
 ・・・・・・・何か、身の熟しが優雅っつーか。
 弧雀をぶっ放してる姿とはえれぇ違い・・・・・・・・・いや、そうでもないか?
 あれはあれで、佇まいがこう・・・・・・衣装はともかく古風な感じが・・・・・・・・・・・・・。
「僕を無遠慮に見るな、黒崎。気持ち悪い」
 ・・・・・・・お前こそ遠慮ないな!
 さっきの俺の行為とは関係なく、普段からこんなだぞてめえは!
 石田が俺を好きになる可能性なんて無いのは分かってる。
 でも、好きな気持ちまで捨てるこたねえよな?
 いつか思い出に変わるまでは、好きでいさせて欲しい・・・・・・・あ、何か想像したら泣けてきた。
 こいつを忘れる俺が悲しくて泣く。
「ちょ!何泣いてるんだ?泣くなら一人になってから泣け!人前で・・・・・・僕の前で泣くな!」
「泣、泣いてねえ!」
「泣いてるだろ!・・・・・・ああもう。気持ち悪いなんて正直に言って悪かったよ!」
 正直って・・・・・・・、追い討ち。
「・・・・・・黒崎。僕にどうしろって言うんだ?君の気持ちは分かったけど、突然過ぎて・・・・・・・どう返していいのかまだ整理がつかない」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?即答じゃねーんだ。
「君が真剣なのはこれ以上なく伝わった。考えるよ。君の気持ちをぞんざいに扱ったりしないから、少し時間が欲しい。多分、君の求める答えではないだろうけど・・・・・・・・・・」
 同性に無理矢理抱きつかれて、キスされて、しかも相手がこいつの大っ嫌いな死神で。
 それでも一生懸命相手への言葉を探すのか?
 一言、「あ、無理」で済むことなのに。ホント融通の利かねータイプだな。
 俺はてっきり一刀両断されるものと・・・・・・・・・・・・・・・・これって、つけこむ隙あんじゃね?
「・・・・・・・石田」
「え?」
「そういやまだ、ホワイトディのお返し、聞いてなかったな」
「いいよ。ここ奢ってもらったし」
「いや、これはさっきの詫びだから。石田もそのつもりで奢れっつったんだろ?」
「・・・・まあそうかな?」
「何が欲しい?何でも言えよ。出来る限り用意すっから・・・・・・・・・・」
 石田が俺を見た。その眼は闇夜を明るく照らす、月と星を連想させる。
 思わず釘付けになる。
「・・・・・・・・じゃあ、それ」
「・・・・・・・どれ?」
「今君が首にしてるチェーン。それがいい」
 チェーン?首元に手をやると、確かに今日はしてきてる。
「別に構わねーけど・・・・・・お前、こんなんするのか?」
「いいや。でも何か貰わないと、君ずっと言い続けるから。鬱陶しい」
 そんな理由で?!結構高かったんだぞ・・・・・・・・・・。
 まあ、お前を飾るならちっとも惜しくないけど、してくんないのは寂しいぞ。
 そう思いながらも俺はチェーンを外し、石田に手渡す。
「あ、リング付きなんだ。君のアクセサリーの趣味、悪くないね」
 おお?石田が俺を褒めるなんて・・・・・・・珍しい。
 嬉しいけど、明日地球が滅びたらどうしよう。
「入った。男ものなんだね、このリング」
「え!?」
 見ると、石田の指にピッタリ嵌ってる。
 俺にはちっさくて入んなかったのに、お前、指細いな。
 シルバーのリング、似合ってる。意外だ。
「これでお返しも済んだね?ご飯も食べたし、帰るよ。ご馳走様」
「お・・・・・・・・おお」
 あっさりしてんな。つか、もう帰んのか?
「ちょっ!ちょっと!」
「・・・・・・・・・・まだ何?」
 少し引き止めたくらいで、んな嫌そうな顔すんなよ!
「デ、デニム作れるのか?」
「作れるけど?」
「俺に一枚作って欲し・・・・・・・・・・」
「断る!」
 けんもほろろ?!おま、これは即答かよ!!
「勿論、材料費その他、払うから!!」
「・・・・・・・・・井上さんが言ったような出来を期待されても困る」
 ああ?老舗ブランドがどうとかってやつか?
「俺はお前が作ったデニムが履きたいんだよ!!」
「ますますお断りだ!!!」
 うわぁ・・・・・・・ものすご嫌悪を露にした顔された。凹む。
 石田はもう振り返りもせず、席を立ち出て行った。ポツンと伝票だけが残る。
 でも結局、酷く悪い結果にはならなかった・・・・よな・・・・・・・?


 こっそりと、自分に都合の良いように、胸の内で解釈する。勝手だな、俺は。
 それでも諦めないで済むなら、済むかも知れないなら、頑張ってみたい。試したい。


『────石田を口説き落とす』


 唱えてみると、めっさ不可能に聞こえる・・・・・・・・・・。


 それでもやる!石田は迷惑だろうけど、恋愛は自由だ!



 ───と、誰かが言ってた気がする。






                                             END



 ◆まずは誤字脱字ごめんなさい!!
 ◇ 気になってたんですけど!もしかして高校って、土曜日お休みですか???
 ◆もしそうなら全力でスルーしてください!!あたし小説書くの向いてない??(泣泣)
 ◇今回一護がこんなで済みません(汗)でも本音を言うと、もっと即物的に書きたかった。
 ◆ブログの限界てどの辺かなぁ・・・・・・。もう少しくらいならいいよね?何がだ!!(笑)


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『 Boys Don't Cry 2 』 石田視点




                        2


                                              石田視点


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「石田。午後からちょい、俺に付き合え」


 黒崎からの誘い・・・・・・・・・ものすごく嫌だ。


 黒崎は今日の午前中、授業そっちのけで僕を凝視し続けた。
 その様がまるで親の敵と云わんばかりで、授業が半日で終わり本当に助かったと思っていたのに・・・・うざいな。
 付き合う義理はないが多分彼の性格上、すんなり開放してもらうのは無理だろう。
 この男が非常識なくらいしつこいのは先月思い知らされた。
 僕は殊更嫌そうな溜息を吐くと、諦観の思いで訊ねた。


「何処へ?」
「お前の行きたいとこ」


 僕の行きたい所は君のいない場所だよ。
 そう告げたいが、言うとうっとおしさが倍になるのでやめとく。
 付き合えと言ってる奴が行き先を示さないのはどういう料簡だ?


「君、一体どうしたいの?」
「欲しいもん、あったら言えよ。予算はあんまないけど・・・何かないか?」
「まだその話?気持ちだけで充分だよ。ホントは気持ちもいらないのに」
「おま・・・・・・・・・」
 あ・・・・・・つい本音が。
 面倒臭い男だな。
 こんなのの彼女になる娘は、よほど大らかじゃないと一緒にはいられないだろうな。
「今日はこの後部室へ行くんだけど、君はどうする?」
「一緒に行く。でも今日は部活休みじゃねえのか?」
 よく見てるな・・・・・・他人の行動に一切興味はないものと思っていたが、意外だ。
「バレンタインにチョコを作ってあげた娘たちが、お礼をくれるって言うから・・・・・・」
「普通男女逆だよな?・・・あれはでも、依頼されたもんだろ?何でまた?」
「さあ?いらないとは言ったんだけど、どうしてもと誘われて・・・・・・」
「お前、結構付き合い良いよな?」
 今!それを君が言うな!!




 手芸部の部室兼被服室のドアを開けると、手芸部員他数名の話し声がピタリと止む。
 先月現れたオレンジ色の眉間皺の不良を、今回も伴って来た所為だろうか。
「あれえ?黒崎くん。何で石田くんと一緒してるの?」
 凍った空気を意に介さず、井上さんがのんびりとした声で問う。
「この後、二人でちょっとな・・・・・・・」
 井上さんの問いに黒崎が返すが・・・・・・ちょっとって何だ?!
 親しげな印象を受けるから止めろ!!
「二人だけって珍しいね?楽しそうで良いなあ・・・・・・」
 え!ちょっと井上さん??楽しそう?!どこら辺が楽しそう???
「ええと、それはさて置き石田くん!これこれ!手芸部女子一同とゲスト4名にて選び抜かれた逸品の数々、ご堪能あれ!!」
「あ・・・・・・・・」
 紙袋一杯に詰め込まれた手芸用の材料・・・しかも主に消耗品だ。
 これは・・・・・・・・嬉しいかも。
「片面ハトメ、両面ハトメ。カシメ。バイアステープ。ファスナーも各種取り揃えてあります。フラット、コイル、コイルオープン、コンシール。これはデニム用のファスナー」
「デニム用?デニムも作れるのか?」
 僕の後ろで「・・・何語喋ってんだよ」と漏らしていた黒崎がデニムの話に食いつき、僕の横に並んで手芸材料をマジマジと見つめた。
「勿論だよ黒崎くん!石田くんの手に掛かれば老舗デニムブランドに迫る出来栄えですぞ!!」
 井上さん、嬉しいけどそれは褒めすぎ・・・・・・・・・・・・・・・黒崎?
 君、何でそんな目がキラキラしてんの?キモイよ?
 まさかそれを僕に作って欲しいなんて言・・・・・・・・・・早々に話題を変えよう。
「レースも一杯ある・・・・・・はしご、トーション、ラッセル、モチーフ、チュール。どれもすごく可愛いね」
「レースは全部1mだよ」
「そんなに?こんなにして貰って本当にいいの?」
「部長にはいつも、沢山お世話になってますから!」
 そんなに何かした覚えもないのに。
 でも、厚意は伝わって来て、とても嬉しく思う。暖かいものが込み上げる。
「有り難う・・・・・・・・」
 心を込めてお礼を言うくらいしか出来ないけど。
 皆の一生懸命な姿が何より嬉しいよ。
 ・・・・・・あれ?急に何だか静かになっ・・・・・・・・・え?黒崎!?
 ちょっ!霊圧が・・・・・・重い。黒崎!霊圧を抑えろ!!
「・・・・びっくりしたぁ。部長、すごく綺麗な笑顔なんだもん。ドキドキした!」
「う・・・うん!部長って美人!」
 何か言われてるけど、こっちはそれどころじゃ・・・・・・ああそうか、普通の人は感じないのか、このくそ忌々しい霊圧を!
 ∑はっ!い、井上さん?
 井上さんは机に手をつき、何とか耐えているみたいだ。
 くーろーさーきー・・・・・・・・・・。
「これ、ホントに有り難う!じゃ、ちょっと、急いでるからこれで!黒崎!来い!」
「お?おおおっ!!」
 僕は黒崎の首根っこを捕まえて、唖然とする女子たちに見送られながらその場を急いで離れた。





「ちょ!石田!猫の子じゃねえんだから・・・・・・石田!てめ、離せっつの!!」
 猫の子?猫の子の方が手が掛からなくて、君よりはいくらかマシだよ!
「黒崎、今自分が何をしたか、正しく理解しているか?」
「・・・・・・・・・何?」
「君が不用意に霊圧を上げた所為で、危うく大虚級の虚を呼ぶ所だったんだ!」
「は?いつ?」
 ・・・・・・・滅却しちゃっていいかな?こいつ。
「手芸部の部室でだ!雑魚が1体こっちに来た、君が対処しろ!」
「ええっ!?」
 黒崎の腰に下げている代行証が、今頃けたたましく鳴る。遅い!
「チッ!石田!お前、ここにいろよ!何処にも行くなよ!俺の体、預けるからな!!」
「え?ちょっ!」
 黒崎は怒鳴るようにそう言うと素早く死神化し、瞬く間に消え去った。
 ここにいろって・・・・・・ここ、学校の廊下。
 意識不明の君の体が人に見つかったらとても不味い。
 いや、幸いというか、すぐそこに保健室がある。更に幸いにも無人だ。
 僕は脱力した黒崎の体を保健室のベッドまで運び込み、寝かせてからカーテンを引いた。
 霊圧を探ると虚は1体のみで、増えてはいない。
 そこに黒崎が到着し、一瞬でけりがつく。迅速だ。黒崎のくせに。
 取り敢えず安堵し、目の前に横たわるオレンジの髪に目を向ける。
 こうして見ると・・・・・・・・・黒崎って、寝てても顔が恐い。コンくんとは別人だな。
 人格は違えど同じ顔と体なのに、不思議だ。
 まあでも、あの眼光鋭い目を伏せてしまうと、幾分マシかな?可愛げは無いけど。
 初めて会った頃より、随分鍛えられたな・・・・・・腕も太くなった。
 黒崎の右腕に触れてみる。骨格が違うのか、綺麗な筋肉のつき方だ。ちょっと悔しいかも・・・・。
 手も大きい・・・・・・・まだまだ身長が伸びるんだろうな。拳が硬いのは喧嘩ばかりしてた所為か?
 でもこの手は・・・・刀を握る手だ。
 生身の方にも死神の経験値が反映されるんだろうか?
 黒崎の手をじっくり観察してる内に、煩い霊圧が帰って来た。何をそんなに急いでるんだ?
 せっかちな奴だな。


「石田ァァ!」


 呼ぶと同時にカーテンを開いた黒崎は、そのまま固まった。今度は何?
 君、今日は朝からずっと挙動不審で、いつにも増して変だよ。
「お前、何で、俺の手ェ握ってんの?」
 ああ、これか。本人に指摘されたので、手を元に戻す。
「いや、握るというより確認なんだが」
「訳分かんねえよ・・・・・」
 黒崎?顔が真っ赤だぞ?気持ち悪いな・・・・・・・何か勘違いしているのか?
「最近、良い感じに体が鍛えられてるなと思って、筋肉のつき方を見てたんだ。他意はないよ?」
「あ・・・ああ、そうか。うん、そうか・・・・・・・・・」
 黒崎の霊圧が、今まで感じた事のないような乱れ方をしている。
 いや、霊圧を追うから複雑になるのか。黒崎の表情から察するに、ドギマギしている?
 男相手にドギマギはおかしいか・・・・・・・リアクションに困ってる?
「し、死神の・・・・・・手も、触ってみるか?」
 死神化した君の手?
 それは、男同士で寒くないかな・・・・・・・・・・でも死神の体か。正直、興味はある。
「いいのか?」
「お、おう・・・・・・・」
「じゃ遠慮なく」


 指先に、最初に感じたのは体温。
 斬られれば血が出るのだから、当然なのか?暖かい。
 抜け殻の体と違い、霊圧が波のように寄せて来る。
 触り心地は生身の体と何ら変わらない。長い指。でも喧嘩慣れしてる。
 指の腹が・・・・・・もう少し硬そうな印象があったのに、割りと柔らかいかな?
 手首を指で押すと脈もとれる。生きている手だ。僕らと何も変わらない。おんなじだ。


「ど・・・・・・どう・・・だ?石田?」
 少し掠れたような・・・・吐息のような声で、黒崎が訊いて来る。
「どうって・・・一年の春に比べれば、男っぽい手になったかな?」
「・・・そうか?お前の・・・・・・指・・・・」
 僕の指?
「綺麗だ・・・・・・・・・」
「っっ!?」
 驚いて引っ込めようとした僕の手を、黒崎が逆に強く握りこむ。
 どど、どうした?!何でそんな熱に浮かされたみたいな、ヤバイ顔になっているんだ!!
「石田・・・・・・・・・」
「な、何??」
「抱き締めて、いいか?」
 はああっっ!!!
「嫌だ!断る!」
「でも俺、今、すごく抱き締めてぇ・・・・・・・・」
「君の気分なんか知った事か!!」


 嫌だと言ったのに。


 黒崎は僕の言葉も抵抗もお構い無しに、強く、強く、抱え込むみたいに抱き締めた。
 彼の霊圧が深海のように、僕を飲み込む。溺れて、窒息しそうなくらい…深い。


「くろ・・・・・・さ・・・・」
「これが、恋だと気付いた途端・・・・・・同時に失恋も知るってのは、正直、キツいわ・・・・・・」


 何?何言って・・・・・・・・・・。
 泣いてんのか?黒崎・・・・・・・いや、目に涙は見えない。泣いてはいない。でも、泣いている?
 めまぐるしい展開に付いて行けない。
 一体誰に恋をして、失恋して、僕にこんな事をしてるんだ君は?
 何をそんなに傷ついてる?
 大きな子供のように縋るように抱き締めてくる黒崎を、僕は黙って待つ事にした。
 必死に彼の体を押し返そうとしていた僕の両手は、所在なげに宙に舞う。
 これは非常に珍しい現象なんだと思う事にする。
 あの、人に弱みを見せたがらない、カッコつけたがりな黒崎が。
 いつも態度がでかく、実は結構ナイーブでキャラとか作ってる黒崎が。
 僕の目の前で傷ついた顔をしている。突き放してはいけないのかも知れない。
 失恋なら、相手は井上さんじゃないんだ。井上さんなら、両想いになるから・・・・・・・・。


「石田・・・・・・・・」
「ん?」
「すまね・・・・・・・」
「・・・・・?何を謝って・・・・・・」
「勃った」
「た?」


 一瞬だったかそうでも無いのか。
 声にならない悲鳴を上げて、弧雀を出そうとした僕の腕を黒崎が遮る。
「おま!ここは駄目だろ!保健室吹っ飛ぶって!!」
「加減する!君だけ吹っ飛ばす!!」
「それもイヤだ!!」
 くそ!単純に力比べだと、どうしても僕が不利だ!
「君の言ってる事は支離滅裂で行動も理解出来ない!誰を好きになって、誰に失恋したって?それで何で僕に抱きついて、その上・・・・・・・たっ!勃っ!」
 言えるかっ!!!
「石田お前、実は馬鹿なんじゃねえの?この状況で何で分かんねーかな!」
 馬鹿に馬鹿と言われる程、腹立たしいものは無い!
「ああ、固有名詞を出してもらわないと分からないね!馬鹿だから!!」
 僕の売り言葉を買った黒崎は・・・・・・・・・・言葉ではなく、他のものでそれを示した。


 急に体に負荷がかかり、黒崎が手加減してくれていたのをまず知らされる。
 頤を強く掴まれ、視線が絡む。黒崎の射抜くような眼に、僕はただ驚きを返す。
 黒崎の瞼が伏せられた時点で、もう彼が何をしようとしているのか理解した。理解したが・・・・・・・。


 降りてきた唇を見つめる事しか出来ず。


 ─────僕は黒崎に、キスされた。



                                          3へ続きます



◆◇◆書きながらいつも黒崎を応援してるのに、何故だか黒崎の嬉しい展開にはならないうちの小説の怪。


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