『恋の連立方程式』後編 一雨SS 一雨SS 2009年07月11日 . 恋の連立方程式 後編 黒崎が魂葬を終えたのを確認し、待つ必要もないと判断して僕は先に帰宅した。 直ぐに飛び出したので点けたままのストーブも気になったし。 家に着き部屋へ入ると暖まった空気が身を包み、晧晧とした明かりの下教科書やノートが持主不在で炬燵の上に広げられたままだった。 時刻は22時半。黒崎のノートを見ると、大体出来上がっている様子だ。 これなら後は一人で充分勉強出来るだろう。 計算が途中だけど・・・・・・・ここ、解きあぐねてたのかな? 僕は黒崎のノートにサラサラとヒントだけを書き加え、それらを閉じた。 そういえば黒崎の体が見当たらないな・・・・・・何処で死神化したんだ? しかしわざわざ探す事もないかと思い、僕は飲みかけだったコーヒーを口にし、黒崎の帰りを待つ。誰かが帰って来るのを待つのなんて、どれくらい振りだろう。 考えてみたけど思い出せない。 遠かった霊圧が近づいて来る。 少し落ち着かない感じがするけど・・・・・間に合ったよね?魂葬したんだから。 窓を擦り抜けて死神代行が帰って来た。 黒崎が僕を見た途端抑えていたらしい霊圧が漏れ、僕の体を軽く押し一歩後退った。 何かあったのか?君の心が千千に乱れている。 「石田・・・・・・・・・・」 僕を呼ぶ黒崎の声が切ない。 眉間の皺も今は恐くなく苦しげで、霊圧は縋るように僕の体に重く圧し掛かる。 「石田がいてくれて良かった・・・・・・・」 何?さっきの魂葬の話だろうか? 「黒崎、どうした?」 「今、魂葬して来た魂魄、昨年亡くなった遊子と夏梨の同級生だった」 そう告げて、黒崎は僕を抱き締めた。 一瞬払いのけようとしたけど、黒崎のあまりの感情の激しさに気圧されて止めた。 僕の髪に差し込まれた指が震えている。どうしたらいいのか判らない。 「遊子も夏梨もすげぇ泣いてたの覚えてる。遊子が・・・・・『無事に天国へ行けたらいいね』って、言ってた。それから時々祈ってた。多分夏梨も同じ気持ちだ。虚の爪はもう後少しってとこで、その子の足に届かなかった。石田が・・・・・・動きを封じてくれたから、間に合った」 「・・・・・・黒崎」 「その子が俺を見て、『遊子ちゃんと夏梨ちゃんの、恐い顔したお兄ちゃん』・・・・・・・て」 「同級生から見ても恐い顔だからな、君は」 「『何処へ行けばいいのか分らなくて、ずっと探してた』・・・・・・て」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「『ありがとう』・・・・て言って、笑顔で逝けた。遊子と夏梨の願いを、俺は護ることが出来た」 「魂葬したのは君だ。君が・・・・・・・・」 「違う、違う。俺だけだと間に合わなかった。お前が・・・・・いてくれて良かった」 君は優しい。でも優しすぎる。 君は君の目の前にある命の全てを護る気か? 無理だよ。 でも、そうあろうとする君を、僕は全否定はしない。 黒崎が全力で護ろうとしたそれは、きっとかけがえの無い大切なものなのだろう。 「お前と出会えて良かった。お前が側にいると、俺はいつも甘く切なくなる。声を聴くと、胸が震える。俺ん中、もうお前で埋め尽くされてる・・・・・・・俺が空でも、海でも、どんくらい広くても、深くても足りない。俺の中は石田で溢れ返る」 「く、黒崎?それじゃまるで愛の告白・・・・・・・・」 唇が塞がれて、続きは言葉にならなかった。 黒崎に口付けられている。何で?どうしてこうなった? 首を背けて逃れようとしても、髪に差し込まれた手がそれを阻む。この…馬鹿力め! 暫らくして・・・・不器用で一方的に求めるだけのキスが、漸く名残惜しそうに終わる。 不味い。やっちまった。 そんな顔をした黒崎に対し、僕はただ驚いてみせるだけなのが悔しい。 気の利いた厭味(?)も直ぐには出て来やしない。 しかもファーストキスだ!どうしてくれる!? 「・・・・・・・悪い、石田」 ・・・・・君、それ、本当に反省して言ってるか?霊圧が上擦ってるんだけど?! 気持ち悪いんだけど!身の危険を感じるんだけど! ・・・・て言うか、謝ってもらう前に! 「まず僕を離せ!顔・・・・・・顔が近い!!」 「え・・・・・・や、もう少しこのままで・・・・」 「何で?!離せよ!気持ち悪いだろ!!」 「そうか?俺はすげえ気持ち良い」 黒崎がおかしい!! 普通気持ち悪いだろ!?僕はハッキリと不愉快だよ!!僕が変なのか?違うよね?? 「黒崎!離れろってば!!」 「石田、お前・・・・・・・」 「な、何っ?!」 「良い匂いする」 「嗅ぐなーーーーーっっ!!!」 怒鳴っても抵抗しても、死神化してる黒崎にはびくともしない・・・・・。絡みつく霊圧に動きを制限されてるのもムカツク。自由になったら絶対ぶちのめすこの男! 「石田・・・・・・・・」 耳もとで内緒話をするように、黒崎が僕の名を呼ぶ。 その直後。 奴は僕の耳たぶを甘噛みした。 「くくくっ、黒っ、黒っっ!!?」 舌先で転がしたり、軽く吸ったりしている・・・・・・いや何でだ?何々だ??? 「ちょっ・・・・・とっ!僕は女の子じゃないんだぞ?!そんな事して楽しいのか!?」 「・・・・・楽しい?楽しいか?どうだろ・・・・・・。でもすっげえ興奮はする」 「興奮っ?!」 そういえば、さっきから足に何か当たる!!想像したくないんだけど!! 「・・・・・・ドキドキし過ぎて、心臓破裂しそう。も・・・・ダメ。我慢出来な・・・・・・かも・・・」 「我慢しろっ!!・・・・・・て、え?何が??」 あ、迂闊。聞かなきゃ良かったのに・・・・・・。 「SEXしてぇ・・・・・・・」 やっぱりっっ!! 「なあ、ダメか?石田・・・・・・」 「ダメだろ?ダメに決まってるだろ?聞くまでも無いだろ?」 近所迷惑も忘れて、大きな声で拒絶する。 僕としてはこれ以上なく 『否』 を示しているのに、黒崎の耳には届いていないようだ。 「大体セッ・・・・クスなんてものは付き合ってる男女がするもので、例え同性だとしても・・・・・やはり恋人同士じゃないと倫理的に不味い行為だと思・・・・」 「あっっ!!!」 ・・・・・・あ?? 「順番間違えた・・・・・・・」 「順番?」 「おう。本当は今日、お前に告るつもりで意気込んで来たんだった」 告・・・・・・・・・・・。 「悪っ!今から仕切り直していいか?」 仕切り直・・・・・・・っていい訳あるかーーーーっ!!! 「帰れっっっ!!!」 「ちょ・・・・・でも、この状態でおあずけはキツイ・・・・・・・」 「知らないよっ!!君の都合だろそれは!?何で僕がそんなものに付き合わなきゃいけないんだ??脳内のシミュレーションだけで終われよ!!」 「・・・でも、石田・・・・・・・」 「うるさい!!」 「好きなんだ」 黒崎の告白の言葉。シンプルだが、霊圧が追い討ちをかけるように圧し掛かる。ウザい。 「俺、お前のこと好きだ。ホントに好きで好きでたまんなくて、どうしたら俺のこと好きになってくれんのか、そればっかし考えてる。毎日・・・・毎日。昼も夜も」 ・・・・・・・・・黒崎。 「夜なんかお前を思い出して3回は抜ける」 「そんなカミングアウトいらないよ!!!」 「好き過ぎて・・・・・・頭、おかしくなりそうだ。俺を、助けてくれよ・・・・石田。お前が欲しくて欲しくて息をするのも苦しい・・・・・・・・・」 ・・・・・・・これは計算か?黒崎。 いつもは尊大な君が弱音なんか吐くと、つい何とかしてやりたい気持ちにさせられる。 とは言っても付き合うことは出来ないが。 「駄目だ、黒崎。僕は、君をそういう目では見れないよ」 「気が変わるかも知んねーじゃん」 「いや変わらないから!!」 「でも絶対じゃねえだろ?」 それは・・・・・・・・・・・・。 「取り敢えず、体から繋いでみるってのは?試してみねえ?お付き合い前提SEX」 「何を・・・・・言い出すんだこの馬鹿は!お断りだ!!」 無理!道徳的にも色々無理!いや、これこそ全否定する!絶対無理だから!! 「え・・・でもこのままだと無理矢理っぽくなっちまう」 「今!この状況が既に無理矢理だろ?!」 待て!君の中ではもうヤルって決定してるのか!?ふざけるなよ滅却するぞ 「・・・・・・シチュエーションについては色々考えて来た筈なのに、全部飛んでる。クッソ!女も口説いた事ねーのに!男なんてどーやったら靡いてくれんだよ!!」 まず相手が僕ってとこが、最大の敗因じゃないかな? 「何かもう面倒臭ェからこのまま無理矢理でもいいか・・・・・・・?」 「止めろ!それは犯罪だ!ホントにやったら見損なうぞ!!」 「ファミレスで俺言っただろ?『自信がねえ…』って。好きな奴と一緒にいて、触れずにはいらんねーよ・・・・・・・・・」 「相手の了解を得ない内は触るな」 「だってお前触らせてくんねーじゃん」 黒崎が僕の髪にキスを落とす。額にも。頬にも。唇の端にも。 目で抗議するがやめる気配は無く、僕の耳を軽く噛んだ後・・・・・・耳の穴に舌を差し込んだ。 「・・・・っあ!」 自分の声とは信じたく無いような、吐息のような・・・・・・・・・・・・・・・変な声出た! 黒崎も意外だったのか、驚いた様子で僕の顔を覗き込む。 羞恥の余り赤面してるだろう己の姿を容易に想像出来る。い・・・・・・いたたまれない。 「見るなっ!」 「お前、結構感じやすい・・・・」 ゴッ! あ、当たった。 さっきから僕の抵抗はことごとく防がれて来たが、思わず出した拳が黒崎の顔面にヒットした。鼻血が出てるけど、自業自得だ。 怯んだ隙にもう一発お見舞いしてやろうとした。 所へ。 「孤天斬盾!私は拒絶する!」 ドゴォォッッ!!! すごく聞き覚えのある可憐な声と轟音が、僕の部屋に響いた。 目の端を過ぎったそれは黒崎の背中を直撃し、抱き締めていた腕が解かれ死神代行は僕の足元に倒れ伏した。 「大丈夫?石田くん!」 「石田無事か?」 「い、井上さん?!茶渡くん??」 何故ここに?いや、どうやって入っ・・・・・・・・黒崎を家に帰すつもりで、鍵をかけてなかったかも。 て言うか。 井上さん、今、孤天斬盾・・・・・・・・・黒崎を攻撃しなかった?したよね? 「黒崎くん!駄目だよ!いくら石田くんの事が好きでも、強姦は良くないよ!!石田くんが可哀相だよ!!」 強姦とか言わないで井上さん・・・・・・何か生々しい。 いやそれより黒崎白目向いてる。君の言葉は多分聞こえてないんじゃないかな。 「いきなりすまない。井上がどうしても心配だと言うから・・・・・だが、来て正解だったようだな」 「茶渡くん・・・・・。皆はこうなる事が分ってたの?」 「告白はするだろうと思っていたが、まさかこんな暴挙に出るとは」 「そうだよ黒崎くん!茶渡くんの言う通りだよ?一方的な感情を押し付けるだけじゃ駄目!石田くんだって心の準備ってものがあるんだから!!」 そんな準備してないよ?!井上さん!! 「・・・う、つぅ・・・・・・・・あれ?井上?チャド?」 気が付いた。黒崎は驚きを隠さず井上さんと茶渡くんを交互に見た。 「黒崎くん!聞いてる?」 「うえっ?な、何が??」 「石田くんに乱暴な真似したよね?ごめんなさいは?」 「え?えええ??」 こんなに・・・・・・・怒っている井上さんは初めて見た。全然迫力とか無いのに、無条件で彼女に従いそうになる。魔法でも使えるの? 「黒崎くん?」 「いや、ちょっ・・・・・・」 「謝罪した方がいい。一護・・・・・」 茶渡くんにも追い討ちをかけられて、黒崎は汗を垂らしながら僕に体を向けた。 「ご、ごめんなさい・・・・・・・・・」 うわ、謝った。 さっきまで僕が何を言っても自分勝手に振舞ってた奴が、何でこんなあっさり? 井上さんマジック! 「ほ、ほら、石田くん!黒崎くんも反省してるし?そりゃ、謝って済む事じゃ無いけど・・・・・あたし、ギクシャクしたくないよ・・・・・・・・」 ええと、井上さん?間に入ってくれるのは良いけど、これ、喧嘩じゃないから。 本当に謝って済む問題じゃないから。当分この馬鹿とは口も利きたくないんだけど。 「それとも黒崎くんの事、鳥肌が立つほど嫌い?」 ・・・・・・・・・・・・・・・そこまでは、感じなかった。かな? 抱き締められた時、気持ち悪いとは思ったけど・・・・・生理的に受け付けないとまではいかなかったような? じゃあキスは・・・・・・・────? 「や、しかし何で井上が俺と石田の間を取り持ってんだ?関係ねーだろ?」 「でも黒崎くん・・・・・今関係を修復しとかないと、明日から石田くんに口を利いてもらえないと思うよ?」 「え?!そうなのか石田?」 「明日と言わず今すぐ叩き出したい。口を利かない以前に地獄へ堕ちろ黒崎・・・・・・・・・」 黒崎がリトマス試験紙のように蒼ざめる。著しく凹んだみたいだ。 僕への無体な仕打ちはまだしも我慢出来るけど、井上さんの厚意に対しての無礼には腹に据えかねるぞ。 「わ!ほ、ほら!石田くん怒ってるよ?勉強も教えてもらえなくなるよ?いいの?黒崎くん!!」 「・・・・・・・困る」 そりゃ困るだろうね。今のままじゃいつもの順位なんて到底キープ出来そうにないよね。 身から出たサビを思い知れ。 ♪終わります^^ [3回]PR
『恋の連立方程式』中編 一雨SS 一雨SS 2009年06月25日 . 恋の連立方程式 中編 「あ、これ、美味いんだよな」 「・・・・・・・・・・・・」 「これも食いたい。お、明太子買おうぜ?」 「・・・・・・・・どうぞ」 「えーと、そうそう。食後に歯磨きしねえとな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「なあ、石田?パンツ買うから風呂もらってもいいか?」 「ストーーーーップ!!黒崎!!」 やめろ!もうやめろ!次から次へとカゴの中に無駄に何でも放り込むな!! 最初に入れたチョコレートはいい。次に入れたポテチも許す。 スポンサーは君だ、食べなかったら持って帰れ。 明太子もいい。晩御飯に使えるから。明太子ディップでも作るさ。 歯磨きは大事だからそれも譲ろう。 しかし何で風呂に入る気満々なんだ?いや、どうしても駄目だとは言わないけど・・・・・君、何しに来る気だ?勉強するんじゃなかったのか? 「黒崎、何時まで居座る気だ?まさか泊めろなんて言い出さないよな?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「何故黙る!?」 「いいじゃねえか・・・・・・明日土曜だし」 泊まる気かっ!? 「言っとくけど泊めないよ?」 「何で?」 「何でって・・・・図々しいな黒崎。それ以前に学校の帰りに寄り道して、そのまま泊まるだなんて非常識だろ?」 「じゃ一回家に帰って外泊許可もらって、着替えとか用意してきたらいいのか?」 「帰れと言ってるんだ僕は!」 宇宙人か君は?何で言葉が通じない! 「じゃどうしたら泊めてくれんだよ?」 「いやどうしてそんなに泊まりたがる??」 「寝る寸前まで勉強出来るし?」 「布団が一組しかないんだ!」 「・・・・・・・・・・そうなのか?この季節に布団無しはキツイな」 うちは一人暮らしだ。必要最低限のものしかない。 「なら一緒に寝るか?あったかいぜきっと」 黒崎の提案を拳で黙らせた。 買物を終えて帰途に着き、買ったものを冷蔵庫へ仕舞い、テーブルに向かって教科書を広げた。 「何処からやる?」 「昨日、井上に説明してたところ教えてくれよ?」 「ええと?2次不等式?」 「いや、加速度計の原理と単振動」 「ああ・・・・ノートは取ってあるか?」 「啓吾のノート借りた。ちゃんと書いてはあるんだけど、あいつの字読み辛くて・・・・・・」 「じゃあ僕のノートを見ながらやろうか」 「お前は誰にノート見せてもらったんだ?」 「井上さん」 「井上?」 「井上さんは国枝さんに見せてもらったから、綺麗に纏めてあったよ?」 「国枝?誰だ?」 「・・・・・・・・・・同じクラスだよ。いつも井上さんとお昼食べてる。髪の長い・・・・・」 「・・・・・・・・いたような気がする」 国枝さんは美人だし運動も出来るし、成績は僕に次いで学年2位だ。 凄く目立つ存在だと思うのに、男としての機能に障害はないか?黒崎。 「そう言えば今日クラスの女子が・・・・・・」 「んん?」 「君のこと、ゼッショクケイとか言ってた」 「・・・・・・・絶食系?絶食男子のことか?」 「うん、(多分)それ」 「ふうん」 黒崎は全く興味無さそうに相槌を打ち、鞄の中を探っている。 「それから、その内ダンショクケイに走るんじゃないかって言・・・・・」 バサッ!バササ─ッ! 教科書や参考書を片手で一気に鞄から引き出してた黒崎の手許から、それらが雪崩のように崩れ落ちた。 「どうした?黒崎」 「や、何でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で?」 「え?」 「他に何か言ってたか?」 「え?ええ?」 促された。何処で反応したんだ? 「ええと・・・・・・やられるとしたら浅野くんか僕だって言ってた」 「チッ!」 舌打ちした っ! 何だ?黒崎!何なんだ?! 「何?何か不愉快な話だったのか?」 「・・・・・・・・お前、意味分ってねーの?」 「よくは・・・・・・。どういう意味?」 「いやいいから!寸暇を惜しんで勉強すっぞ!」 はぐらかした。まあいいか。試験勉強が先だ。 家についてからもう2時間がたった。黒崎は元々飲み込みが早いので、かなりハイペースで進んでいる。正直感心した。 「そろそろ晩御飯の仕度に取り掛かろうか?」 「おう。何か手伝うことあるか?」 「キッチンが狭いから邪魔だ。大人しく勉強しててくれるのが一番助かるよ」 「・・・・・・・へ~イ」 黒崎は上げた顔を伏せて、途中だった運動方程式を再開する。 誰かの為に料理するなんて久しぶりだ。 しかも相手は死神、あり得ない筈だった。でも今、僕は黒崎と馴れ合ってる。 あいつ(竜弦)は再三『死神とは拘わるな』と言うが、それは何を指して言ってるのだろう。 何人もの死神と知り合った。いい奴らだと思った。(一部例外を除く) 好感すらもてた。 今はこうして黒崎と試験勉強などしているが、いつかはまた、相反する日が来るのだろうか。 「お前の飯、美味いな!何食っても美味ェ!特に味噌汁が抜群に!!」 黒崎が珍しく手放しで褒める。 男の手料理でこれほど大袈裟に喜ぶとは・・・・・・黒崎を口説く時は料理上手で攻めたら、もしかしたらあっさりオちるかも知れないな。 しかし井上さんの場合、彼女の手料理はハナからどうやって回避するかだもんな、黒崎の奴。 井上さん・・・・・・・・・・・・ファイト! 「これ、何ての?」 「ディップ?」 「おう。また作ってくれよ?」 「・・・・・明太子とサワークリームがあれば自分で作れるから、家で作れば?そんな事より食べ終わったんならさっさと前を片付けろ。この調子なら物理と数学は22時には目処がつく」 「風呂は?」 「ホントに入る気か!?自宅へ帰ってから入れ!!」 「ええーーー」 そんな恐い目つきで子供のようにぶうたれても、可愛げの欠片もないから。 そういう顔は井上さんにして見せろ。きっと、喜ぶから・・・・・・・。 黒崎はまだブツブツ文句を言いながらも、食べ終えた食器をシンクへ下ろし、洗い始めた。 「いいよ、食べ終わったら僕のと一緒に洗うから置いといて」 「作ってもらったんだ、こんくらいさせろ」 でもお金出したの君なんだけど・・・・・・・・・。 「君、結構いい旦那さんになれるかもね」 「お前はいつでも嫁に行けるな」 ・・・・・・・誰が嫁だ 22時少し前。 そろそろ黒崎を家に帰そうと思った頃、虚の気配を察知した。 僕は素早い動作でコートを着込み、玄関へ向かう。 「・・・・・・・どうした?石・・・・」 黒崎が腰に下げている代行証が鳴った。相変わらず反応が鈍い。どうにかしろ。 「黙ってねーで、虚が出たんなら言えよ!」 「君の方が気付け」 「鈍いってのかよ俺が!」 「鈍くないと言うのか君が?」 立腹した黒崎をそう切り捨てて玄関を出ると、僕は飛簾脚で先行した。 黒崎も慌てて後に続く。 「ちょ!待てよ石田・・・・・・・・待っ、待てっつってんだろてめえっ!!」 「君が追いつけ」 「・・・・・つくづくてめえは」 虚が高速で移動を始めた。整を見つけたのか? 少し間に合わないかも知れない・・・・・・・・。 「黒崎」 「んだよ!」 「僕がここから虚を足止めする。君はトップスピードで虚を捕らえ、切り伏せろ」 「おあっ?!」 「早く行け!!」 僕がそのまま立ち止まり弧雀を構えると、黒崎は一度だけ振り返り、瞬歩を加速した。 虚の霊圧を正確に測れ。矢を細く速く射ろ。ダメージは減少するが、動きを止めるのは可能な筈。 僕はギリギリまで集中を高め、渾身の一矢を放つ。 それは黒崎の頭上を越え、次の瞬間、禍々しい霊圧を打ちのめした。 程なく、黒崎が止めを刺し、魂葬を終えたのを確認した。 後編へ続く→ [1回]