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君無き世界(倉庫)

イチウリ妄想暴走日記へのご来訪、ありがとうございます^^

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一雨SS  St. Valentine's day

                      君の知らないチョコレート


abe7916f.jpg








「はい!黒崎くん!バレンタインディ、おめでとう!」


 ・・・・・・えーと。朝からテンション高いな井上。
 登校して来た俺にいきなり綺麗にラッピングされた包みを差し出した井上は、満面の笑みを零さんばかりだ。
 今日がバレンタインなのは今朝方、妹の遊子に手作りのチョコを渡されたので知っている。
 まあ俺には余り縁の無い行事だから、教室に入るまで忘れてたけど。
 て事は、こいつはチョコレートか。義理堅いな井上。
「サンキュ、井上。でもいいのか?」
「いいのいいの!これはねえ、手作りなんだよ~。チョコで有名なお店の手作り用のを買って来て、三角の形に固めてからまず餡子を挟みます」
 餡子??
「それからカステラを挟み、カステラに緑色の物体を塗ります」
 カステラ??緑色の物体!?
「それは抹茶と見せかけて・・・・・・実は山葵でした!」
 チョコレートに山葵!!
「そして山葵の上に更に塗りたくる明太子色の物体は、勿論、明太子です!」
 勿論て何だ?!いや餡子から既にいらねえだろ!!
「わたくし井上織姫。辛いのもイケる口であります!」
 聞いてねえよそんな事!これを俺に食えってのか!?
「奮発した甲斐あって、スペシャルな出来栄えになりました!チョコレートサンドイッチ、どうぞ召し上がれ!」
 ∑食わす気だ───っ!!
 奮発した意味ねえだろそれっ!!サンドすんな!!
「作りながら少し味見したけど、今までで一番美味しく出来たよ♪」
 味見・・・・・・・・したのか。井上、お前の舌は人外魔境か?
「あー・・・・、や、家で食うわ」
 食うのか俺・・・・?
 劇物じゃないだけで、絶対苦痛は免れないよな。
「あ、石田くん!おはよう!」
 俺の肩越しに石田を見つけたのか、井上は鞄からもうひとつ包みを取り出すと、俺の横を擦り抜けた。
 振り向くと、確かに石田だ。
「はい!石田くん!バレンタイン、おめでとう!」
 うわぁ・・・・・・・・こんだ石田が被害者か。
「どうも有り難う、井上さん」
「ねえ、ホントに何のトッピングもいらないの?リクエスト通りチョコのみサンドになっちゃったけど…物足りなくない?」
 なにっ!!
「僕は複雑な味わいより、シンプルな方が好きなんだ。その気持ちだけで充分だよ」
「そう?あ、茶渡く~~ん!」
 次は茶渡へと歩み寄る井上を見送り、俺は石田に近づいた。
「石田お前、そのチョコ、何も入ってねえのか?」
「彼女の前衛的なチョコレートについては、本人から事前に聞いていたからね。改造・・・改良しないでくれと予め頼んでおいた」
 俺にも先に言っといて欲しかったぜ井上・・・・・・。
 井上から貰った破壊的でない方のチョコを、石田は丁寧な仕草で自分の机の中に仕舞った。
 その他にもうひとつ、石田の鞄の中に綺麗な包装紙の包みが見える。
「あれ?石田、他にも誰かから貰ったのか?」
「何が?」
「鞄ん中にもう一個ある」
「ああ、これは・・・・・・」
 言いつつ石田はもう片一方のラッピングされたそれを鞄から出した。
 井上の包みにも一生懸命さが滲み出ていたが、こっちは優しく包まれたプロの仕上げのようだ。
「これは僕が作ったんだ」
「・・・・・・・はあ?!何で??」
「あげる為に決まってるだろ?」
 あげる?あげるって、誰に?つか何の為に?
 男がチョコを貰う日だから、逆だろ?え?まさか男にやるのか!?
「だだだだっ、誰にやんだ!?」
「・・・・何を急にどもっているんだ?誰でもいいだろ。君には関係無い」
 え?いや無いけどさ。確かに無いけどさ。
 石田がバレンタインに手作りのチョコレートを誰に渡すのかなんて・・・・・・そんな天変地異の前触れみたいな行為、知りたいに決まってんだろ!!
 しかし本鈴が鳴ってしまい、俺は後ろ髪惹かれながらも取り敢えず席に着いた。



「なあ石田!そのチョコ、誰にやんだよ?教えてくれたっていいじゃねーか、減るもんじゃなし!」
「君も大概しつこいな。僕が作ったチョコを誰にあげようが関係ないだろ?何でそんなに気になるんだ」
「いやだってよ、天変地異とか起こるかもしんねーし?」
「意味が判らないよっ!」
 今日はこの問答を俺と石田で壊れたプレーヤーの如く繰り返した。
「一護、その話は一旦置いといて、お昼にしよう。時間なくなっちゃうよ?」
 俺の後から掛けられた、水色のやんわりと遮る言葉は石田への助け舟なのが判る。
 言外に『いい加減にしときなよ』と言ってるんだろう。
 渋々と俺は席に戻って弁当を出し、水色に続く。
「あ?啓吾は?」
「あのね・・・・・今日の一護は石田くんにベッタリで、周囲に全く気付いてないよね。啓吾は今パンを買いに行ってる。石田くんのチョコがそんなに気になる?でもあれ一個じゃないよ?ロッカーに紙袋一袋分、チョコが置かれてた。ホント、どうするんだろ?あれだけの・・・・・・」
 水色の話を途中でブッ千切り、俺はダッシュで踵を返した。
「石田ァァッ!!」
 息を切らして戻って来た俺に驚く石田の手に、水色の言う通り紙袋一杯に詰まったチョコの山を視認した。
「それ!どうすんだ!?何でそんな天こ盛りなんだ?一人にそんだけやるのか?それとも複数相手に配るのか?本命は一人じゃないのか?相手は誰なんだよ!俺にも一個くれ!」
 あれ・・・・最後なんか本音出たか?
 一気に捲くし立てた俺に呆れ返っているのか、石田の動作が止まっている。
 でもすぐ長い溜息を吐いた後、諦観の面持ちで言った。
「そこまで気になるならついて来い、黒崎」
「お?おう・・・・・・何処行くんだ?」
「手芸部の部室だよ。このチョコレートは女子に依頼されて作ったんだ」
「依頼?お前の手作りのチョコ、男に渡すのか?」
 それで自分の手作りだとか言って渡されたら、詐欺じゃね?俺なら全然嬉しくない。
「さすがに好きな相手に渡す物は、自分の手作りだと思うよ。これは自分用とか言ってた」
「自分用?」
「彼氏用、義理チョコ、家族の他に、自分用のチョコを買い求めるんだ。女の子は基本、甘い物が好きだから、見てる内に欲しくなるんだろうね」
「だからって、何で石田が?」
 これだけの量のチョコ、作るの大変だったろーに。店で買やぁいいじゃねえか。
 ん?何で俺が怒ってんだ?それこそ石田の言う通り、関係ないだろ俺は。
 関係ないんだけど・・・・・・何か嫌だ。
「高級チョコより随分安値で買えて、自分で言うのも何だけどかなり満足を得られる出来らしい」
「そんな旨いチョコなら俺にもくれよ・・・・」
「人数分しか作ってない。」
 ぐっ!怒りのボルテージが上がる・・・・・・・・。
 そうこう話してる内に手芸部の部室へ到着した。
 石田がドアを開けると、10人以上の女子が屯していて華やかな視界と喧騒の空間が広がっていた。
「あ、石田部長・・・・・・・・」
 石田に気付いた女子が声を掛け、そのまま何故か石化した。
 俺が訝しげに周囲を見渡すと喧騒は静寂に取って代わり、女子たちの顔には恐怖が刻まれている。
 何事だ?
「黒崎、殺し合いに来たみたいな顔してる」
 石田に軽く脳天チョップをくらいながらそう窘められ、改めて自分の眉間の皺に気付く。
「大丈夫。黒崎はこんなだけど、別に取って食いやしない。見た目より害はないから安心していいよ。それよりほら、チョコレート。数が合ってるか確認して?」
 取って食うって・・・・・・どんな顔だよ。
 俺が不貞腐れている間にも、石田のチョコがそれぞれの女子の手に納まって行く。チッ!
 でもその中に、さっき石田が鞄に仕舞い込んでいた、綺麗な包装のチョコの姿は無かった。
 あれは誰の分だったんだ?
 配り終え、空の紙袋を下げて教室へ戻る石田に続き、項垂れて歩く。
 教室に一歩足を踏み入れた時、無言だった石田が振り向いた。
「屋上に行かなくていいのか黒崎?小島くんたちが待ってるんじゃないのか」
「おっと!」
 そうだった。うっかりこんな所まで戻って来ちまったぜ。
 もう一度教室を出ようとした俺の視界に、さっきの包装紙が引っ掛かかり思わず歩を止める。
「あっ、黒崎く~~ん!ちょっといい?」
 井上の呼び声に、俺はそれから目が離せないまま、ゆっくりと近づいた。
「これ、石田くんの手作りチョコ、皆で食べてたの。美味しいよ?食べてみて!黒崎くんチョコレート好きでしょ?」
 井上の分だったのか・・・・・・そういや手芸部にいなかったな。先に貰ってたのか。
 そのチョコレートはラッピングの良し悪しについてよく知らない俺の目にも、何だか特別な何かを感じさせた。
 これ、すげえ、心が篭ってるよな。紙袋のチョコとは何処か違う。
 豪華とかってんじゃなくて・・・・・大切に丁寧に、喜んでもらいたいって気持ちが見える気がするチョコレートだ。
 まるで愛の告白みてえ・・・・・・・・・。
「・・・・??黒崎くん?」
「ああ、一個もらう」
 素人作の割りに見た目も綺麗に仕上がっているチョコをひとつ掴み、口に放り込む。
 確かに旨い。すげえ旨い。非のうちどころの無い味だ。
 でも俺の胸には何でか、苦く切なく染み入ってくる。
 切ない?何でだ・・・・・・・・。 


『石田は・・・・・・・井上のことが好きなのか?』


 頭の中でそれを言葉にすると、今度は胸が締め付けられた。
 今まで感じた経験のない痛みだ。
「美味しいでしょ?」
 屈託の無い声で井上が聞いてくる。でも、唇は動くのに言葉にならない。
「チョコレート、好きなのか?」
 どうやら様子を見ていたらしい石田が、少し離れた自分の席から俺に問い掛ける。
 心臓が小さく跳ねた。
「バレンタイン対策のネタじゃなくて?」
 からかうように聞いてくるが、それに答えたのは俺じゃ無く井上だった。
「本当だよ?黒崎くんはチョコレートと明太子が好きなんだって」
「誰情報?それ」
「竜貴ちゃん」
「じゃあそうなんだ」
 俺抜きで俺の話が眼前を行き来しているが、俺の目は未だチョコレートを捕えたままで離れない。
 認めたくない事実をつきつけられた気分だ。
 俺は、石田のチョコレートが欲しい。沢山の中のひとつじゃなく、俺の為に一生懸命作ってくれた唯一のもの。
 何でか判んねーけど、欲しい。
 井上はいいな・・・・・同時に、何でそんな大切なものを昼休みに複数で食ってんだと、腹立たしくも思う。
 ・・・・いや、井上は悪くない。
 思い通りにならないジリジリと焼けた心を持て余す、俺自身の問題だ。
「・・・・・・黒崎。そんなに物欲しそうに井上さんのチョコを見るな。今、クラス中の皆がドン引きしてる」
 あ?何でだ?そんな目立つような事もしてねーし、騒いでもねーのに。
 でも確かにクラス全体が、遠巻きに俺らを見てる。何なんだ?
 そんな空気に溜まりかねたみたいに、石田が言う。
「そんなに欲しいなら、家に余ったのがあるから明日持って来ようか?黒崎」
 俺は勢い良くその申し出に振り向き、石田の前まで高速移動した。
「ホントか?マジで?」
「・・・・・い、いいよ。」
「つか、明日と言わず今日欲しいんだけど、お前ん家まで取りに行っていい?」
「家までついて来るつもりか?」
「駄目なのか?」
「途中でスーパーに寄るけど・・・・・・」
「付き合うよ。荷物も持ってやる」
「女の子じゃないんだから・・・・・・・・」
 俺、どうかしてんのかな。石田の言葉ひとつで、何でこんな有頂天になってんだ?
 さっきまでの曇天の心が、今は雨上がりの青空みてえだ。
「じゃあ、取りに来るといいよ」
 その上、色取り取りの花が咲き乱れた。俺の心象風景で。
「そうだ、黒崎くん。あたしのあげたチョコ、明太子入ってるから今日中に食べてね?」
 井上がヒマワリのような笑顔で地獄を思い出させてくれたが、今はそれを上回る浮遊感に包まれてっから、大丈夫だ俺。
 会話を終えた石田が自席に戻り、弁当を開く。
 そうだった。俺もチャド、水色、啓吾を待たせてるんだった。
 左手に握ったままの昼飯の存在を思い出し、俺は慌てて屋上へと急いだ。


 来年からは俺の分も作ってくれるよう、石田に頼もう。
 何だか俺、あいつのチョコが貰えねえと、どうしようもなく凹むみてーだし。


 どっか腑に落ちないが・・・・・・・・ま、いっか。






 終わりました~!


もっと短い話のつもりだったのに、思ったよりダラダラと長くなり終わらなくて焦った
 因みに織姫スペシャルは、ひとつひとつ分けて食べました、一護。イイ奴だ(笑)
色取り取りの花が咲き乱れた一護の心象風景で、「王!キモい!」とか言って白崎キレてたら笑う。

 

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拍手お礼SS 一護ポエム

                            初恋 





自覚してしまった後の片想いってやつは、かなり辛いもんがある。
好きになった奴が男だったとか、とうてい叶えられそうもない恋だとか、そんな事よりも。
そいつもまた片想いで、俺以外の相手をひたすら優しく見つめている。
そんな姿を追う度に、焦がれた胸がジリジリと小さな音をたて、自身をゆるりと焼き尽くす。
しかもこれが俺の初恋だってんだから、始末に負えない。無意識だった嫉妬も、今ははっきりと輪郭を成す。
そうじゃなくとも自分は不器用なのに、あいつは男で・・・・寄ると軽く喧嘩腰になるしで、頭ン中グチャグチャになっちまう。
どんな事でも白黒つけたがる俺が、こんな状況にいつまで耐えられるのか、甚だ疑問だ。


窓際の席で、石田が本のページを捲る。
白く形の良い指が滑らかに動き、眼鏡の奥の目も落ち着きをたたえ、穏やかな空気を醸し出す。
そういったあいつの作る世界も、言葉も、仕草も、表情も。
人となりも含め、いつからか全てが愛しくなっていた。


人を好きになるのに、ホント、理由なんてねえんだな。
『黒崎』と、石田が俺を呼ぶ声は耳を震わせ、胸を震わせ、全身を甘く痺れさせる。
俺はこの気持ちを慎重に扱わなければならない。
俺は思った事を直ぐ口に出す性格だから、あいつの誇りを傷つけないよう、あいつの目を力尽くでこっちに向けさせないように。
俺はあいつに気付かれず、あいつの事、大事にしたい。
初恋は実らないっていうけど、今はそれで充分だ。




■後書■
いや初恋実るから。良かったね一護(笑)しっかし、すんげーポエムでどうしてくれよう・・・・私。

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