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君無き世界(倉庫)

イチウリ妄想暴走日記へのご来訪、ありがとうございます^^

『恋の連立方程式』後編 一雨SS

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 恋の連立方程式  後編




黒崎が魂葬を終えたのを確認し、待つ必要もないと判断して僕は先に帰宅した。
直ぐに飛び出したので点けたままのストーブも気になったし。
家に着き部屋へ入ると暖まった空気が身を包み、晧晧とした明かりの下教科書やノートが持主不在で炬燵の上に広げられたままだった。
時刻は22時半。黒崎のノートを見ると、大体出来上がっている様子だ。
これなら後は一人で充分勉強出来るだろう。
計算が途中だけど・・・・・・・ここ、解きあぐねてたのかな?
僕は黒崎のノートにサラサラとヒントだけを書き加え、それらを閉じた。
そういえば黒崎の体が見当たらないな・・・・・・何処で死神化したんだ?
しかしわざわざ探す事もないかと思い、僕は飲みかけだったコーヒーを口にし、黒崎の帰りを待つ。誰かが帰って来るのを待つのなんて、どれくらい振りだろう。
考えてみたけど思い出せない。

遠かった霊圧が近づいて来る。
少し落ち着かない感じがするけど・・・・・間に合ったよね?魂葬したんだから。

窓を擦り抜けて死神代行が帰って来た。
黒崎が僕を見た途端抑えていたらしい霊圧が漏れ、僕の体を軽く押し一歩後退った。
何かあったのか?君の心が千千に乱れている。

「石田・・・・・・・・・・」

僕を呼ぶ黒崎の声が切ない。
眉間の皺も今は恐くなく苦しげで、霊圧は縋るように僕の体に重く圧し掛かる。

「石田がいてくれて良かった・・・・・・・」

何?さっきの魂葬の話だろうか?

「黒崎、どうした?」
「今、魂葬して来た魂魄、昨年亡くなった遊子と夏梨の同級生だった」

そう告げて、黒崎は僕を抱き締めた。
一瞬払いのけようとしたけど、黒崎のあまりの感情の激しさに気圧されて止めた。
僕の髪に差し込まれた指が震えている。どうしたらいいのか判らない。

「遊子も夏梨もすげぇ泣いてたの覚えてる。遊子が・・・・・『無事に天国へ行けたらいいね』って、言ってた。それから時々祈ってた。多分夏梨も同じ気持ちだ。虚の爪はもう後少しってとこで、その子の足に届かなかった。石田が・・・・・・動きを封じてくれたから、間に合った」
「・・・・・・黒崎」
「その子が俺を見て、『遊子ちゃんと夏梨ちゃんの、恐い顔したお兄ちゃん』・・・・・・・て」
「同級生から見ても恐い顔だからな、君は」
「『何処へ行けばいいのか分らなくて、ずっと探してた』・・・・・・て」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『ありがとう』・・・・て言って、笑顔で逝けた。遊子と夏梨の願いを、俺は護ることが出来た」
「魂葬したのは君だ。君が・・・・・・・・」
「違う、違う。俺だけだと間に合わなかった。お前が・・・・・いてくれて良かった」

君は優しい。でも優しすぎる。
君は君の目の前にある命の全てを護る気か?

無理だよ。

でも、そうあろうとする君を、僕は全否定はしない。
黒崎が全力で護ろうとしたそれは、きっとかけがえの無い大切なものなのだろう。

「お前と出会えて良かった。お前が側にいると、俺はいつも甘く切なくなる。声を聴くと、胸が震える。俺ん中、もうお前で埋め尽くされてる・・・・・・・俺が空でも、海でも、どんくらい広くても、深くても足りない。俺の中は石田で溢れ返る」
「く、黒崎?それじゃまるで愛の告白・・・・・・・・」

唇が塞がれて、続きは言葉にならなかった。
黒崎に口付けられている。何で?どうしてこうなった?
首を背けて逃れようとしても、髪に差し込まれた手がそれを阻む。この…馬鹿力め!
暫らくして・・・・不器用で一方的に求めるだけのキスが、漸く名残惜しそうに終わる。
不味い。やっちまった。
そんな顔をした黒崎に対し、僕はただ驚いてみせるだけなのが悔しい。
気の利いた厭味(?)も直ぐには出て来やしない。
しかもファーストキスだ!どうしてくれる!?

「・・・・・・・悪い、石田」

・・・・・君、それ、本当に反省して言ってるか?霊圧が上擦ってるんだけど?!
気持ち悪いんだけど!身の危険を感じるんだけど!
・・・・て言うか、謝ってもらう前に!

「まず僕を離せ!顔・・・・・・顔が近い!!」
「え・・・・・・や、もう少しこのままで・・・・」
「何で?!離せよ!気持ち悪いだろ!!」
「そうか?俺はすげえ気持ち良い」

黒崎がおかしい!!

普通気持ち悪いだろ!?僕はハッキリと不愉快だよ!!僕が変なのか?違うよね??

「黒崎!離れろってば!!」
「石田、お前・・・・・・・」
「な、何っ?!」
「良い匂いする」
「嗅ぐなーーーーーっっ!!!」

怒鳴っても抵抗しても、死神化してる黒崎にはびくともしない・・・・・。絡みつく霊圧に動きを制限されてるのもムカツク。自由になったら絶対ぶちのめすこの男!

「石田・・・・・・・・」

耳もとで内緒話をするように、黒崎が僕の名を呼ぶ。

その直後。

奴は僕の耳たぶを甘噛みした。

「くくくっ、黒っ、黒っっ!!?」

舌先で転がしたり、軽く吸ったりしている・・・・・・いや何でだ?何々だ???

「ちょっ・・・・・とっ!僕は女の子じゃないんだぞ?!そんな事して楽しいのか!?」
「・・・・・楽しい?楽しいか?どうだろ・・・・・・。でもすっげえ興奮はする」
「興奮っ?!」

そういえば、さっきから足に何か当たる!!想像したくないんだけど!!

「・・・・・・ドキドキし過ぎて、心臓破裂しそう。も・・・・ダメ。我慢出来な・・・・・・かも・・・」
「我慢しろっ!!・・・・・・て、え?何が??」

あ、迂闊。聞かなきゃ良かったのに・・・・・・。

「SEXしてぇ・・・・・・・」

やっぱりっっ!!

「なあ、ダメか?石田・・・・・・」
「ダメだろ?ダメに決まってるだろ?聞くまでも無いだろ?」

近所迷惑も忘れて、大きな声で拒絶する。
僕としてはこれ以上なく 『否』 を示しているのに、黒崎の耳には届いていないようだ。

「大体セッ・・・・クスなんてものは付き合ってる男女がするもので、例え同性だとしても・・・・・やはり恋人同士じゃないと倫理的に不味い行為だと思・・・・」
「あっっ!!!」

・・・・・・あ??

「順番間違えた・・・・・・・」
「順番?」
「おう。本当は今日、お前に告るつもりで意気込んで来たんだった」

告・・・・・・・・・・・。

「悪っ!今から仕切り直していいか?」

仕切り直・・・・・・・っていい訳あるかーーーーっ!!!

「帰れっっっ!!!」
「ちょ・・・・・でも、この状態でおあずけはキツイ・・・・・・・」
「知らないよっ!!君の都合だろそれは!?何で僕がそんなものに付き合わなきゃいけないんだ??脳内のシミュレーションだけで終われよ!!」
「・・・でも、石田・・・・・・・」
「うるさい!!」
「好きなんだ」

黒崎の告白の言葉。シンプルだが、霊圧が追い討ちをかけるように圧し掛かる。ウザい。

「俺、お前のこと好きだ。ホントに好きで好きでたまんなくて、どうしたら俺のこと好きになってくれんのか、そればっかし考えてる。毎日・・・・毎日。昼も夜も」

・・・・・・・・・黒崎。

「夜なんかお前を思い出して3回は抜ける」
「そんなカミングアウトいらないよ!!!」
「好き過ぎて・・・・・・頭、おかしくなりそうだ。俺を、助けてくれよ・・・・石田。お前が欲しくて欲しくて息をするのも苦しい・・・・・・・・・」

・・・・・・・これは計算か?黒崎。
いつもは尊大な君が弱音なんか吐くと、つい何とかしてやりたい気持ちにさせられる。
とは言っても付き合うことは出来ないが。

「駄目だ、黒崎。僕は、君をそういう目では見れないよ」
「気が変わるかも知んねーじゃん」
「いや変わらないから!!」
「でも絶対じゃねえだろ?」

それは・・・・・・・・・・・・。

「取り敢えず、体から繋いでみるってのは?試してみねえ?お付き合い前提SEX」
「何を・・・・・言い出すんだこの馬鹿は!お断りだ!!」

無理!道徳的にも色々無理!いや、これこそ全否定する!絶対無理だから!!

「え・・・でもこのままだと無理矢理っぽくなっちまう」
「今!この状況が既に無理矢理だろ?!」

待て!君の中ではもうヤルって決定してるのか!?ふざけるなよ滅却するぞ

「・・・・・・シチュエーションについては色々考えて来た筈なのに、全部飛んでる。クッソ!女も口説いた事ねーのに!男なんてどーやったら靡いてくれんだよ!!」

まず相手が僕ってとこが、最大の敗因じゃないかな?

「何かもう面倒臭ェからこのまま無理矢理でもいいか・・・・・・・?」
「止めろ!それは犯罪だ!ホントにやったら見損なうぞ!!」
「ファミレスで俺言っただろ?『自信がねえ…』って。好きな奴と一緒にいて、触れずにはいらんねーよ・・・・・・・・・」
「相手の了解を得ない内は触るな」
「だってお前触らせてくんねーじゃん」

黒崎が僕の髪にキスを落とす。額にも。頬にも。唇の端にも。
目で抗議するがやめる気配は無く、僕の耳を軽く噛んだ後・・・・・・耳の穴に舌を差し込んだ。

「・・・・っあ!」

自分の声とは信じたく無いような、吐息のような・・・・・・・・・・・・・・・変な声出た!
黒崎も意外だったのか、驚いた様子で僕の顔を覗き込む。
羞恥の余り赤面してるだろう己の姿を容易に想像出来る。い・・・・・・いたたまれない。

「見るなっ!」
「お前、結構感じやすい・・・・」

ゴッ!

あ、当たった。
さっきから僕の抵抗はことごとく防がれて来たが、思わず出した拳が黒崎の顔面にヒットした。鼻血が出てるけど、自業自得だ。
怯んだ隙にもう一発お見舞いしてやろうとした。

所へ。

「孤天斬盾!私は拒絶する!」

ドゴォォッッ!!!

すごく聞き覚えのある可憐な声と轟音が、僕の部屋に響いた。
目の端を過ぎったそれは黒崎の背中を直撃し、抱き締めていた腕が解かれ死神代行は僕の足元に倒れ伏した。

「大丈夫?石田くん!」
「石田無事か?」
「い、井上さん?!茶渡くん??」

何故ここに?いや、どうやって入っ・・・・・・・・黒崎を家に帰すつもりで、鍵をかけてなかったかも。

て言うか。

井上さん、今、孤天斬盾・・・・・・・・・黒崎を攻撃しなかった?したよね?

「黒崎くん!駄目だよ!いくら石田くんの事が好きでも、強姦は良くないよ!!石田くんが可哀相だよ!!」

強姦とか言わないで井上さん・・・・・・何か生々しい。
いやそれより黒崎白目向いてる。君の言葉は多分聞こえてないんじゃないかな。

「いきなりすまない。井上がどうしても心配だと言うから・・・・・だが、来て正解だったようだな」
「茶渡くん・・・・・。皆はこうなる事が分ってたの?」
「告白はするだろうと思っていたが、まさかこんな暴挙に出るとは」
「そうだよ黒崎くん!茶渡くんの言う通りだよ?一方的な感情を押し付けるだけじゃ駄目!石田くんだって心の準備ってものがあるんだから!!」

そんな準備してないよ?!井上さん!!

「・・・う、つぅ・・・・・・・・あれ?井上?チャド?」

気が付いた。黒崎は驚きを隠さず井上さんと茶渡くんを交互に見た。

「黒崎くん!聞いてる?」
「うえっ?な、何が??」
「石田くんに乱暴な真似したよね?ごめんなさいは?」
「え?えええ??」

こんなに・・・・・・・怒っている井上さんは初めて見た。全然迫力とか無いのに、無条件で彼女に従いそうになる。魔法でも使えるの?

「黒崎くん?」
「いや、ちょっ・・・・・・」
「謝罪した方がいい。一護・・・・・」

茶渡くんにも追い討ちをかけられて、黒崎は汗を垂らしながら僕に体を向けた。

「ご、ごめんなさい・・・・・・・・・」

うわ、謝った。
さっきまで僕が何を言っても自分勝手に振舞ってた奴が、何でこんなあっさり?
井上さんマジック!

「ほ、ほら、石田くん!黒崎くんも反省してるし?そりゃ、謝って済む事じゃ無いけど・・・・・あたし、ギクシャクしたくないよ・・・・・・・・」

ええと、井上さん?間に入ってくれるのは良いけど、これ、喧嘩じゃないから。
本当に謝って済む問題じゃないから。当分この馬鹿とは口も利きたくないんだけど。

「それとも黒崎くんの事、鳥肌が立つほど嫌い?」

・・・・・・・・・・・・・・・そこまでは、感じなかった。かな?
抱き締められた時、気持ち悪いとは思ったけど・・・・・生理的に受け付けないとまではいかなかったような?

じゃあキスは・・・・・・・────?

「や、しかし何で井上が俺と石田の間を取り持ってんだ?関係ねーだろ?」
「でも黒崎くん・・・・・今関係を修復しとかないと、明日から石田くんに口を利いてもらえないと思うよ?」
「え?!そうなのか石田?」
「明日と言わず今すぐ叩き出したい。口を利かない以前に地獄へ堕ちろ黒崎・・・・・・・・・」

黒崎がリトマス試験紙のように蒼ざめる。著しく凹んだみたいだ。
僕への無体な仕打ちはまだしも我慢出来るけど、井上さんの厚意に対しての無礼には腹に据えかねるぞ。

「わ!ほ、ほら!石田くん怒ってるよ?勉強も教えてもらえなくなるよ?いいの?黒崎くん!!」
「・・・・・・・困る」

そりゃ困るだろうね。今のままじゃいつもの順位なんて到底キープ出来そうにないよね。
身から出たサビを思い知れ。



♪終わります^^


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