『恋の連立方程式』中編 一雨SS 一雨SS 2009年06月25日 . 恋の連立方程式 中編 「あ、これ、美味いんだよな」 「・・・・・・・・・・・・」 「これも食いたい。お、明太子買おうぜ?」 「・・・・・・・・どうぞ」 「えーと、そうそう。食後に歯磨きしねえとな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「なあ、石田?パンツ買うから風呂もらってもいいか?」 「ストーーーーップ!!黒崎!!」 やめろ!もうやめろ!次から次へとカゴの中に無駄に何でも放り込むな!! 最初に入れたチョコレートはいい。次に入れたポテチも許す。 スポンサーは君だ、食べなかったら持って帰れ。 明太子もいい。晩御飯に使えるから。明太子ディップでも作るさ。 歯磨きは大事だからそれも譲ろう。 しかし何で風呂に入る気満々なんだ?いや、どうしても駄目だとは言わないけど・・・・・君、何しに来る気だ?勉強するんじゃなかったのか? 「黒崎、何時まで居座る気だ?まさか泊めろなんて言い出さないよな?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「何故黙る!?」 「いいじゃねえか・・・・・・明日土曜だし」 泊まる気かっ!? 「言っとくけど泊めないよ?」 「何で?」 「何でって・・・・図々しいな黒崎。それ以前に学校の帰りに寄り道して、そのまま泊まるだなんて非常識だろ?」 「じゃ一回家に帰って外泊許可もらって、着替えとか用意してきたらいいのか?」 「帰れと言ってるんだ僕は!」 宇宙人か君は?何で言葉が通じない! 「じゃどうしたら泊めてくれんだよ?」 「いやどうしてそんなに泊まりたがる??」 「寝る寸前まで勉強出来るし?」 「布団が一組しかないんだ!」 「・・・・・・・・・・そうなのか?この季節に布団無しはキツイな」 うちは一人暮らしだ。必要最低限のものしかない。 「なら一緒に寝るか?あったかいぜきっと」 黒崎の提案を拳で黙らせた。 買物を終えて帰途に着き、買ったものを冷蔵庫へ仕舞い、テーブルに向かって教科書を広げた。 「何処からやる?」 「昨日、井上に説明してたところ教えてくれよ?」 「ええと?2次不等式?」 「いや、加速度計の原理と単振動」 「ああ・・・・ノートは取ってあるか?」 「啓吾のノート借りた。ちゃんと書いてはあるんだけど、あいつの字読み辛くて・・・・・・」 「じゃあ僕のノートを見ながらやろうか」 「お前は誰にノート見せてもらったんだ?」 「井上さん」 「井上?」 「井上さんは国枝さんに見せてもらったから、綺麗に纏めてあったよ?」 「国枝?誰だ?」 「・・・・・・・・・・同じクラスだよ。いつも井上さんとお昼食べてる。髪の長い・・・・・」 「・・・・・・・・いたような気がする」 国枝さんは美人だし運動も出来るし、成績は僕に次いで学年2位だ。 凄く目立つ存在だと思うのに、男としての機能に障害はないか?黒崎。 「そう言えば今日クラスの女子が・・・・・・」 「んん?」 「君のこと、ゼッショクケイとか言ってた」 「・・・・・・・絶食系?絶食男子のことか?」 「うん、(多分)それ」 「ふうん」 黒崎は全く興味無さそうに相槌を打ち、鞄の中を探っている。 「それから、その内ダンショクケイに走るんじゃないかって言・・・・・」 バサッ!バササ─ッ! 教科書や参考書を片手で一気に鞄から引き出してた黒崎の手許から、それらが雪崩のように崩れ落ちた。 「どうした?黒崎」 「や、何でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で?」 「え?」 「他に何か言ってたか?」 「え?ええ?」 促された。何処で反応したんだ? 「ええと・・・・・・やられるとしたら浅野くんか僕だって言ってた」 「チッ!」 舌打ちした っ! 何だ?黒崎!何なんだ?! 「何?何か不愉快な話だったのか?」 「・・・・・・・・お前、意味分ってねーの?」 「よくは・・・・・・。どういう意味?」 「いやいいから!寸暇を惜しんで勉強すっぞ!」 はぐらかした。まあいいか。試験勉強が先だ。 家についてからもう2時間がたった。黒崎は元々飲み込みが早いので、かなりハイペースで進んでいる。正直感心した。 「そろそろ晩御飯の仕度に取り掛かろうか?」 「おう。何か手伝うことあるか?」 「キッチンが狭いから邪魔だ。大人しく勉強しててくれるのが一番助かるよ」 「・・・・・・・へ~イ」 黒崎は上げた顔を伏せて、途中だった運動方程式を再開する。 誰かの為に料理するなんて久しぶりだ。 しかも相手は死神、あり得ない筈だった。でも今、僕は黒崎と馴れ合ってる。 あいつ(竜弦)は再三『死神とは拘わるな』と言うが、それは何を指して言ってるのだろう。 何人もの死神と知り合った。いい奴らだと思った。(一部例外を除く) 好感すらもてた。 今はこうして黒崎と試験勉強などしているが、いつかはまた、相反する日が来るのだろうか。 「お前の飯、美味いな!何食っても美味ェ!特に味噌汁が抜群に!!」 黒崎が珍しく手放しで褒める。 男の手料理でこれほど大袈裟に喜ぶとは・・・・・・黒崎を口説く時は料理上手で攻めたら、もしかしたらあっさりオちるかも知れないな。 しかし井上さんの場合、彼女の手料理はハナからどうやって回避するかだもんな、黒崎の奴。 井上さん・・・・・・・・・・・・ファイト! 「これ、何ての?」 「ディップ?」 「おう。また作ってくれよ?」 「・・・・・明太子とサワークリームがあれば自分で作れるから、家で作れば?そんな事より食べ終わったんならさっさと前を片付けろ。この調子なら物理と数学は22時には目処がつく」 「風呂は?」 「ホントに入る気か!?自宅へ帰ってから入れ!!」 「ええーーー」 そんな恐い目つきで子供のようにぶうたれても、可愛げの欠片もないから。 そういう顔は井上さんにして見せろ。きっと、喜ぶから・・・・・・・。 黒崎はまだブツブツ文句を言いながらも、食べ終えた食器をシンクへ下ろし、洗い始めた。 「いいよ、食べ終わったら僕のと一緒に洗うから置いといて」 「作ってもらったんだ、こんくらいさせろ」 でもお金出したの君なんだけど・・・・・・・・・。 「君、結構いい旦那さんになれるかもね」 「お前はいつでも嫁に行けるな」 ・・・・・・・誰が嫁だ 22時少し前。 そろそろ黒崎を家に帰そうと思った頃、虚の気配を察知した。 僕は素早い動作でコートを着込み、玄関へ向かう。 「・・・・・・・どうした?石・・・・」 黒崎が腰に下げている代行証が鳴った。相変わらず反応が鈍い。どうにかしろ。 「黙ってねーで、虚が出たんなら言えよ!」 「君の方が気付け」 「鈍いってのかよ俺が!」 「鈍くないと言うのか君が?」 立腹した黒崎をそう切り捨てて玄関を出ると、僕は飛簾脚で先行した。 黒崎も慌てて後に続く。 「ちょ!待てよ石田・・・・・・・・待っ、待てっつってんだろてめえっ!!」 「君が追いつけ」 「・・・・・つくづくてめえは」 虚が高速で移動を始めた。整を見つけたのか? 少し間に合わないかも知れない・・・・・・・・。 「黒崎」 「んだよ!」 「僕がここから虚を足止めする。君はトップスピードで虚を捕らえ、切り伏せろ」 「おあっ?!」 「早く行け!!」 僕がそのまま立ち止まり弧雀を構えると、黒崎は一度だけ振り返り、瞬歩を加速した。 虚の霊圧を正確に測れ。矢を細く速く射ろ。ダメージは減少するが、動きを止めるのは可能な筈。 僕はギリギリまで集中を高め、渾身の一矢を放つ。 それは黒崎の頭上を越え、次の瞬間、禍々しい霊圧を打ちのめした。 程なく、黒崎が止めを刺し、魂葬を終えたのを確認した。 後編へ続く→ [1回]PR