[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「好き」を隠し持つ50の方法
恋が……突然にやって来る、一過性の麻疹みたいなものなら良かったのに。
石田雨竜を知る人間(死神を含む)なら、まず思いも寄らないだろう。
この僕が、よりによって、阿散井恋次を好きになるなんて…………。
この気持ちに最初に気付いた時、明日、槍の雨が降ったら自分の所為だと脈絡無く思った。気が動転の余り。
だって……あの赤い髪の刺青男の何処に、僕が好きになる要素がある?
本来、阿散井が同性である事よりも、死神を憎むという大前提がある。それを加味しても覆せない想いなら、誰かに惚れ薬でも盛られたのでない限り、どうする事も出来ないだろう。
恋は思案の外とは言うが、自分の中にこんな手強い感情が芽生えるなんて………原因を滅却出来たらどんなにか清々するのに。
そしてその原因が今日、尸魂界からのこのこと僕の所へやって来た。何でかムカツク。
好きなのに腹立たしいとはどういう事だ?恋の連立方程式も、滅却対象に入れておこう。
らしくもなく、ちょっとテンパってるかも知れない……考えてる事が支離滅裂だ。
「次はドラッグストアへ行こう。トイレットペーパーと洗剤が安いんだ。」
「まだ買うのかよ?スーパーで大量に買い込んだってーのに、これ以上持てねーぞ!」
「気合を入れれば大丈夫。そんなでかい図体して、見掛け倒しなのかい?」
「図体でかくたって、腕は2本しかねーっつの!…てコラ見掛け倒しって何だ!喧嘩売ってんのか?」
「今は売らないよ。荷物持ってもらわなきゃ。」
「……てめ…。」
阿散井は言葉ほど怒っていない。彼の生きてきた年数を考えれば子供もいいトコだが、やはり黒崎とかと比べると大人だ。いや比べる対象を間違えたか。
がらっぱちな風体だが阿散井は意外と気配りが出来、優しさを黙したまま見せる。
尸魂界では静かにモテているかも知れない。女性はそういう処、見逃さないから。
それにしても…彼が現世に来ると、確かに色々買いすぎてしまう。
何故なら最近、阿散井は浦原さん宅では無く、専らうちへ来るようになったからだ。
理由はおかわり自由だからだそうだ。自由にした覚えはないんだけど……。
たまに叩き出したくなるが、彼と一緒にいると……まあ、概ね嬉しいから良しとしよう。
誰かといて嬉しいっていうのは、皆が当り前のように持っている感情なのだろうか?
今までそれを知らなかった僕には、少し不思議な気がする。
諸々を買い揃えた後、二人で帰途に着く。
僕のアパートの部屋に上がると荷物を降ろし、阿散井はドカッと定位置に座った。
「ふー…。義骸ってのは狭っ苦しくていけねえ。」
「重かっただろ?有り難う。お茶でも淹れようか?」
「あー。構うな構うな。こんなのどうって事ねえ。」
結局増えた荷物も持ってくれた事への感謝の言葉を述べると、ぶっきらぼうな応えが返り、自然と阿散井に向けて笑みがこぼれてしまう。僕は滅多に笑うタイプじゃないのに。
こういうふとした拍子に、『ああ、僕は阿散井のこと、凄く凄く好きなんだなぁ……』 と思う。
この手の感情を自覚したのは初めてだが、早くに気付けて良かった。
阿散井への好意を、無防備に周囲に晒さずに済んだから。
「洗剤は洗濯機の横、トイレットペーパーは廊下の収納。で良かったよな?片しとくぞ?」
「あ、うん。頼むよ。」
強面に似合わず阿散井はマメだ。ちょっと笑えるほど。
以前、甲斐甲斐しい阿散井の姿を目撃した黒崎の率直な感想が……
「お前ら新婚夫婦みてえな?」
だった。僕と阿散井の二の腕に、見事な鳥肌が立った。
いや、阿散井のことは好きだけど、それとこれとは話が別で。
僕と阿散井とでは、どう頑張ったって男女のような関係にはならないし、なりたいとも思わない。
唇を重ねるとか、体を繋げるとか。
そういった欲求は、一般の高校生男子に比べると自分は淡白な気もするが、無い訳でもなく体の何処かに触れていたいとは思う。
指を絡めてみたい。肩にもたれて互いの体温を感じてみたい。
阿散井の胸に顔を埋めて、その鼓動を確かめたい。
男が男に感じるには、充分常軌を逸した行為になるだろう。
だからこの気持ちは、阿散井には絶対に知られたくない。
恋が、一過性の麻疹みたいなものなら良かったのに。それなら、治るのに。
直ぐに通り過ぎ、こんな想いも長く続いたりしないのに。
どうして僕は、こんなやっかいな恋を抱えてしまったんだろう。
阿散井が笑うと、心に優しい火が灯ったみたいに、僕を暖かくする。
視界を全て白で覆い尽くすような寒い日も、君さえ傍にいてくれれば、他には何も必要としなくなるくらい……切実に君が欲しいと思う。
君は死神だけど、僕は君を形作る全ての物を否定しない。受け入れる。
あるがままでいい。
僕は何も知らなかった。
自分の中でこんなにも失いたくない誰かが心の大部分を占め、知識としての想像を遥かに越えて切なく痛みも増やしながら、君を想う。そんなものの存在を。
阿散井と過ごすこんな穏やかな時間を無くしたくなくて、僕は必死で「好き」を秘める。
だから君は疑ってもいないよね。
虚と対峙する時は攻めの姿勢を崩さないのに、阿散井の前だと自分を守るのに精一杯で、本当の気持ちが見つからないように隠すのが上手くなる。
優しく響く君の声に返す僕の言葉は、吐きたくない嘘ばかりが積まれてゆく。
秘めた恋なら仕方無い。「好き」を隠し持つ50の方法を、僕は今日も実践する。
END
後書
乙女な雨竜を目指しました!目指すのは自由だ!でも謝っとく、済んっませんっしたー!!
うちはハッピーエンド絶対条件なので、この後、阿散井の方からあっさり告られたら笑える。
雨竜、散々悩んだ意味無し!(笑)それにしても一護はまた余計な事を…