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買い物があったので、ついでに外で小説書いたら捗ってしまった。
自分は引きこもりが好きなのだと思っていたが、実はそうでもないらしい。
王は後宮へお運びになる度、僕や侍女たちに何かしらの手土産を持参される。
それは絹だったり、装飾品だったり、調度だったり。
宝石や金や銀・・・・綺麗だけど、僕を飾る物ではないと思う。
調度品についても、この椅子一脚で・・・・僕一人なら何百年食べるのに困らないだろうか?といった計算しか浮かんで来ない。
ただ、絹は嬉しい。
最高級のシルクを惜しげもなく、一着のドレスを仕立てる為だけに使い、最高級のレースで縁取る。
これだけは何より嬉しい。
黒崎が見たら無言になるようなデザインらしいが、それは黒崎のセンスがおかしいんだ。
「なあ・・・・・・それ」
朝から元気の無かった黒崎が、今日初めて自分から話しかけて来た。
「何だ?」
「その、珍しいな、お前が・・・・指輪してんの」
ああ、これか。
これは今朝方王より賜った物だ。
「そちはどうしてか、朕が授けた玉を身に着けてはくれぬな。気に入らなかったのか?違う職人に作らせようか?」
「Σいえ!纏うのが余りにも勿体無くて(ある意味本当)・・・・私の配慮が足りませんでした。職人に非はございません。どうか、よしなに・・・・・」
「左様か。では、これだけはいつも、身近に置いてくれぬか?朕の為に・・・・・」
と言って新たに賜ったのが、今左手の薬指に填めている指輪だ。
馬鹿でかい宝石もゴテゴテした飾りもなく、白金に小さな金剛石がいくつか埋められている程度の、至ってシンプルなデザインだ。
これなら僕でも、さほど抵抗無く着けられる。
「王に戴いた品の中では、これが一番地味な宝飾品になるかな?」
「へえ・・・・でもまあ、結構似合ってんぞ」
「そう?・・・・・・・・・そうかな?」
似合っているのか?
地味とは言え、女物だぞ。
「ちょっといいか?」
そう言って、黒崎がいきなり僕の左手を取った。
王太子から逃がす為、僕の肩に両手をかけた時以外では、初めて黒崎が僕に触れた。
流魂街にいた頃から気安く肩を組むような間柄でも無かったし、正直驚いた。
「・・・・・臣下が、側室に贈り物しても、別にいいんだよな?」
「構わない筈だが?」
第二皇子も何か色々持ってくるけど、全部クローゼットに押し込んで見向きもしていない。
時々どこぞの大臣だかがご機嫌伺いにやって来ては、やっぱり諸々の品を置いて行く。
だから別に良いと思う。けど。
「これ・・・・・そんな上等なもんじゃねえけど」
そう言って黒崎は、死覇装の襟に隠れて見えなかったチェーンを引き出した。
チェーンにはやはりシンプルなデザインの、ホワイトゴールドの指輪が通されていた。
「・・・・・何?」
「だから、お前にやるっつってんだ」
横柄な態度だな、この後宮に仕える侍女も警護の死神も。
勿論その方が、恭しく振る舞われるよりは楽だけど。
チェーンを手のひらで受け取ろうとしたら、黒崎が僕の後ろに回った。
「着けてやる」
着けるって、何だか本当に女性のように扱われてるな。
黒崎が僕を覚えていたならきっとはねつけただろうけど、僕を知らない黒崎に意地を張っても仕方がない。
それに、本当は、少しでも君に近づきたい。
今は楓も撫子もいないから。
ほんの少しだけ、君の息づかいを感じたい。
「ほっせー首・・・・・」
僕の首が細くて君に何か迷惑をかけたか?
心の中で毒づくが、実際には羞恥にうなじを薄く染めただけだ。
ドキドキする。
勿論本人に気づかれないようにはしてるけど、黒崎の指先がうなじに触れる度、僕は喜びに震えそうになる。
君が好きだ。
誰一人失いたくないという、我儘なくらい真っ直ぐな君が。
全部護ってみせるというビッグマウスを、有言実行した君が。
見た目がアレな割に、優しすぎて心も体も傷つく君が。
僕の事が好きだと言い、睨みつけながら返事を待った君が。
全て懐かしく愛しい。
黒崎が・・・もう二度と僕を好きにならなくとも、僕は忘れないから。
君が僕に告白したあの日の事は。
「えっと・・・・もういいぞ」
僕が振り向くと、黒崎が目を細めて笑った。
「ああ、似合う。お前・・・・綺麗だ・・・・・・」
最近よく言われるようになった形容だが、黒崎に言われるとまた朱が走る。
ドキドキする。止まらない。
君が好きでたまらない。
広大な中庭を見下ろせるバルコニーで、僕と黒崎は言葉を見失ったまま、見つめあった。
問いたげな瞳。薄く開かれた唇。
何だかこれ、良い雰囲気というかやばい感じというか・・・・・・。
君は何でそんなに、切なげに僕を見る?
「言ったわよね?雨竜様に手ェ出したらどうなるか・・・・・」
前触れもなく届いた撫子の声と同時に、黒崎は一瞬にして楓に組みしかれた。
「いってぇぇーーーっ!!!ちょ、ギブギブ!骨折れる!!」
「大丈夫、痛いのは今だけよ。直に何も分からなくなるから・・・・」
Σ怖いよっ!!
「待って!楓!!」
「危なかったですわね、雨竜様。私たちが戻るのがもう少し遅れたら、唇を奪われていましたよ。今処刑しますんで暫くお待ちを」
「わーーー!!楓!!黒・・・、一護は何もしてないよ?!」
「未遂で何よりでした」
「誤解だって!!一護にそんな趣味は無いから、離してやってくれ!!」
「雨竜様はそうお思いですの?」
「いやそうだって!!」
「・・・・雨竜様がそうお信じなら、もう何も言いません」
黒崎が見た目はか弱いが実は屈強な、楓の下から解放された。
「うおお・・・・びびった。戦車に上へ乗られたみてーに、びくともしなか・・・・・・」
また余計な事を言った黒崎は、楓に回し蹴りを食らい、美しく磨かれた床に勢いよく突っ伏した。