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ゼロ距離
──黒崎一護視点──
何駅目かで。
「黒崎君!」
よく知った女子の声に、俺は別段何の構えもなく振り向いた。俺の名を呼ぶその女子の声は、クラスメイトでダチの井上織姫だった。
色んな意味で明るく目立つ井上は、自分より大きな何かを引き摺って来た。
「お?おう。お前ら・・・・・・・井上と・・・・石田?何?デート?付き合ってんのか?」
よく見るとその大きな何かは、やはりクラスメイトで・・・・クラスメイトの石田雨竜だ。
つかお前、女子に引き摺られるってどうよ?男として。
「男女が二人で電車に乗っていたからと言って、付き合ってるとは限らない。想像力がないのか?君は」
何だとコラ石田!
「石田君とはねぇー、ホームでばったり会ったんだよ?奇遇奇遇♪黒崎君とも会えるなんて凄い偶然!奇遇3乗だね!」
あ・・・・そうですか。何か調子狂うんだよな、井上のイントネーション。
しかし休日にこのコンビって、意外な組み合わせだ。いや待て同じ手芸部だったな。
井上の両腕がガッシと石田の左腕に絡みつき、連行されている風にしか見えないが・・・・腕を組んでると言い張ればそんなんにも見えなくもない。
万にひとつの可能性を思い描けず、疑問を声に出しただけだが。
「黒崎君は何でこの電車に乗ってたの?」
「あー・・・・アクセ見に来た。新作が入荷したっつーから」
「そっか~。あたしはランジェ買いに出て来たの」
「ラン・・・・・・?」
「ランジェリー。最近ブラがちっちゃくなっちゃって」
「ちっちゃ・・・・・・・・・、井上!」
「何?黒崎君」
何じゃねーだろ!男二人相手に出す話題じゃねーっつの!
あっ!石田てめ、あさっての方角見て他人の振りしてんじゃねー!!
「おまっ、お前は何でいんだよ石田!」
こっち向けおらっ、仲間入りしろ!
「言われ方が心外だ。僕が何時、何処で、何をして君と同じ電車に乗っていようが関係ないだろ黒崎一護」
よし、流れが変わった。公衆の面前での井上との会話は、時々すっげー恥ずいんだよ・・・・・・・。
「石田君は『ヒマワリソーイング』の帰りなんだって」
こいつ・・・・・・・手芸とスーパーと虚と学校に行動範囲限定か?!
ん?そういやスーパーと言えば、遊子が何か言ってたな・・・・・・・・・・・あ、思い出した。
「うわぁ・・・・・・・石田お前、一般的な男子高校生から、ことごとく規格外だな」
「黒崎。何をして一般とそうでない者を区別するのかな?明確な応えを是非ご高説賜りたいね」
おまえの喋りは一々堅苦しいんだよ。『慇懃無礼』って言葉、こないだテストに出たぞ。
石田のイメージで覚えてて正解したわ、あんがとよ。
「お前、こないだ遊子とスーパーで会った時、タイムセールの卵1パック28円を買おうとしたの、止めたんだってな。この手の卵は本当に質が悪く、栄養摂取が目的なら通常の値段の物が良いってな」
「ああ・・・・そんな事言ったかな?スーパーの店員は熟知してるから28円の卵は買わないらしいよ。栄養が殆んど取れないから」
「遊子の奴、そんな情報をナチュラルに提供出来る石田さんて凄い・・・・とか尊敬してたぞお前の事」
その後親父が『石田とは何処の石田だ!?特定の男子と必要以上に仲良くなってはイケマセン!何?!高校生!!ますますダメ!!よし、大事が起こる前に父さんが行って、石田君の息の根を止めて来る』とか騒ぎ出して、それを遊子が怒って・・・・珍しくマジ切れしてたな。
「そんな、大した事じゃないよ」
ここで赤くなんなよ・・・・・・・・。
「いや照れるトコ違うから。それ男子高校生の知識じゃねえだろ」
お前は男子高校生の皮を被ったカリスマ主婦か?
「何でさ?どんな事でも知らないより知ってた方が、後々役に立つ事もあるだろう?実際にこれらの情報は今、僕には反映してるし」
「そういう処が規格外だっての・・・・・」
そこまで言ってから少し言い過ぎた気がした。
「まあ・・・・石田の場合事情があんだろうから、悪い意味で言ってる訳じゃねえけどよ」
いや言ってんだろ?と心の中で自分に突っ込む。
母親不在の家の中。
家事は全部遊子任せで、一人暮らしを経験した事もねー癖に、偉そうだな俺は。
「へえぇ、石田君てモッノ知り~!あたしも一人暮らしだから反映させていただきます!」
・・・・・・・・井上もそうだった。
ますます身の置き所がない・・・・今この空間では明らかに俺が規格外じゃね?
そういやうちのクラスで携帯持ってないの、俺と石田と井上だけだったな。
うちは親父の方針で、俺も別に必要としてないし。
あ、でもあれだ。伝令神機は支給して欲しいかも・・・・ルキアの奴使い勝手良さそうだったからな。
何で俺は代行証だけなんだ?まあそれも別に無くて困る程じゃない。
少なくとも一人暮らしの若い女は、持ってた方が良いんじゃねえか?
それも家計の遣り繰りなんぞした事ない俺が言うのは、大きなお世話だな・・・・・。
「悪ィ、石田、井上。お前らの場合一人暮らしだから、色々あんだろ・・・・とやかく言って済まなかった」
「え?何?話が見えないよ黒崎君??」
イんだよ分かんなくって、俺が謝りたいんだよ。自己満足でも。
「そ・・・・・・・・・・」
プシュウウゥゥ・・・・・・・・。
石田が何か言いかけた時、ドアが開き声を掻き消す。
次の瞬間、季節的に厚着をしてる黒山の人だかりが押し寄せ、あっという間に俺と石田と井上の3人は奥へと追い遣られた。
咄嗟に井上を庇ったが石田も井上を庇った為、体重の軽いあいつは体勢を崩し倒れ込みそうになった。
俺は井上を左腕で支え、右腕で石田を引き寄せ抱きかかえるようにする。
ドアが閉まると人いきれも落ち着き、俺はまず井上を見た。
「わぁ!びっくりした!凄い人だね・・・・何かイベントでもあったのかな??」
井上は大丈夫そうだ。
「どうだろう・・・・大丈夫?井上さん?」
「あたしは平気・・・・・」
心配そうに井上を覗き込む石田の風貌が様変わりしていた。お前が大丈夫か?
「いや人の心配してる場合か?石田。眼鏡どうした?」
「あ・・・・・・・・・・・」
遅ェよ!俺は視力が良いから見えないってのがよく分かんねぇけど、直ぐ気付けっつの。
てーかこいつ、俺の心配は微塵もしてなかったな!引き寄せてやったのにムカツク・・・・・。
密着状態に気を使ってか、井上が小声で石田に話し掛ける。
これじゃ捜しようがないね・・・・とか何とか言ってるみたいだ。でも二言三言で終わった。
そうして沈黙を纏った車輌内は、規則正しい振動を刻む。
静けさを保った空間で、俺が初めに気になったのは匂いだった。
嗅いだ事ある。しかも毎日。何の匂いだ?仄かに香る甘い匂いは香水とかの類じゃねー。
フルーティフローラル?とかいったか?あれだ、遊子が今使ってるシャンプーの匂いだ。
井上?違うな。え?石田??こいつか?女物のシャンプー使ってんのか?
そういや遊子の奴、いつもは安くならないシャンプーが特売だったとかで、嬉々として買って来てたな。
石田なら特売に引かれてフルーティフローラルくらい気にせず買いそうだ・・・・俺なら我慢出来ねー。
でも普段、遊子からこれが香ってきてもスルーなのに、石田からっつのが意外で気になるぞ。
眼鏡をかけてないと何時もの鋭利さが鳴りを潜め、幼く柔和な印象を受ける。
柔和。まさかこの表現を石田に使う日が来るとは、思いもよらなかったぜ。
髪は黒々としてるのに、産毛薄・・・・。全体的に体毛が薄そうだ。
頭部ちっせぇ。顔も小顔だし・・・・睫長いな。眼鏡で普段隠れてて見えなかった。
肌白いのは見るからにだけど、木目細か!髪もサラッサラで、どっちも絹みてぇ・・・・・・。
触ったら不味いかな?いや、ぶん殴られそうだ。
触る?石田に触りてぇのか俺は?おかしかねーか、それ?おかしーだろ俺!大丈夫か俺!!
待て待て!よーく考えろ!石田だぞ?あの石田だぞ?ナイナイナイ!
そりゃ眼鏡はずしたこいつはちょっと、綺麗な顔してるなとは思っちまったけど・・・・。
なんつーか詩的に言えば・・・・・夜を統べる瞳に心奪われたとか、陶磁器のような肌の透明感に目も指も吸い寄せられるようだ・・・・・・・・みたいな?
ヤバイヤバイおかしくなんの止めらんね!心臓が早鐘を打つ!著しく速い!
・・・・にしてもこいつ、本っ当に俺に無関心だよな!こっちはこんなにガン見なのに!マジむかつく!
いっくら白く木目細やかでも男の肌だぞ!どんっなにシルクみてーに艶やかだろうが男の髪だぞ!
胸が高鳴ってる場合か!どんだけ石田がお綺麗でも、石田とヤれる訳な・・・・・・・・・!!!
────俺が石田とヤってる姿を脳内で鮮明に映像化してしまった・・・・・・・・・・・・
石田にくっついたまま、あられもないトコロが元気になり、気分的には血の気が引いた。
身長は俺のが少し高い程度であんま変わんねーから、すっげぇイヤな位置なんすけど・・・・。
イヤとか思いつつ少しずつ起き上がって来・・・・・・うっわ、これ石田にばれたら滅却される!確実に殺られる!
空座高校2年、黒崎一護。電車内で不審死。享年16歳。嫌過ぎる!!
判ってんのに、妄想が次から次へと浮かび上がる。
首細いな・・・・尸魂界で見たこいつの死覇装姿、スラリとしてよく似合ってた。滅却師の白い服より、和服のが良い。
・・・・・て、俺の好みはどーでもいいだろ!想像してんな!帯解きてーとか、脱がしやすそーなんて考えんな!変態か!
なんで俺、今、こんな理由で自分と戦ってんだ?虚と戦ってるほうがマシだ!
あ・・・・・・・ヤベ。代行証に手ェー届かねえわ。前言撤回、今は来ないで下さい。
必死に高ぶりを抑えようとするが、石田とこの体勢で密着してっとSE・・・・・Xを連想させてどうにもならない。
つか何で石田?女っぽいかこいつ?いや全然。一見モヤシだが、その実強い。
でも今はこいつに色仕掛けとかで迫られたら、頂いてしまう自信があるぞ。そんな自信いらねー!
ぎゃあぁっ!!余計な事考えたらまたいらん映像が・・・・潤んだ瞳で、上目遣いで俺を見上げる石田なんざ、この世の何処にも存在しねえよっ!!
どうしようも無くクラクラし、挙動り、このまま意識を失っちまいたいと思い始めた頃・・・・・・・。
石田が身じろいだ。
石田の目は井上に向けられ、次に吊革を見てからまた井上に視線を戻し、その後周囲を探るように見渡す。
気付かれてる・・・・気付かれてるよコレ!でも何で密着状態の俺はスルーですか?
石田の視線がゆっくりと動き、俺を捕らえようとした瞬間、俺は慌てて俯いて逃げた。
俺が石田に欲情してるのを知られる・・・・・・・・そう思うと青ざめ気味だった俺の顔色は、一気に朱に染まる。
石田は俺の事どう思うだろう。まずドン引かれるよな。そんで気持ち悪いよな。
こんな公衆の面前で男相手におっ勃てるような奴、明日から周囲3メートル以内に近寄らせてくんないかもな・・・・・・・触る所じゃねえよ・・・・つかっ!どんだけ石田に触りてーんだ俺は!
こいつの性格からしても、勢い余って殺され兼ねねーのに!
うっわ見てる、めっちゃこっち見てるよ石田。今頃ガン見だよ。い、いたたまれねー!
自分の所為とはいえ、何かもう・・・・情けないのに止めたいのに、石田とゼロ距離のままだと俺は・・・・体どころか心まで、俺の理性を本能が凌駕してしまう。
「あ・・・・と。良かった!ドアが開くのさっきの所じゃなくて、直ぐそこみたい。降りれそう。次、空座町だよ?」
・・・・・・・井上いたのか。石田にうつつを抜かし、目には留まってたのに存在を忘れてた・・・・・・・て!
ヤバイッ!!
ちょっとタンマ!俺、こんなテント張った状態で衆目に晒されるのか??
死ぬ!マジで死ぬ!余りのかっこ悪さに高鳴り続け酷使してた心臓、いよいよ止まる!!
「ごめん、井上さん。僕は少し黒崎に話があるんだ。先に降りてくれる?送ってあげられなくて残念だけど・・・・・・」
え?石田?俺に話すか!あれか?死の宣告とやらか!滅却されるのか俺!!
「あれ?そうなんだ・・・・うん、判った。じゃ、明日学校でね」
「ああ、またね」
「・・・・・・・・・・・・・っ」
すまん、井上。今俺の脳裏には色々な怖いもんが去来してて、声出ねえ。顔を上げて手ェ振んのが精一杯だ・・・・・。
少し井上の表情が曇った気がしたが、直ぐドアが閉じられ、隔離された空間が残る。
何つって切り出されるのかと構えてた俺の前で、石田はいきなり自分のコートを脱いだ。
「黒崎、これを着ろ。前を・・・・その、あれだ・・・・・・・・」
「悪ィ・・・・・・・・・」
意図が判り、俺は有り難く受け取った。
空座町で結構人が降り、まだ少し混んではいるがコートを着る幅くらいは何とかとれる。
俺は自分が着ていたパープルのマウンテンパーカーを脱ぐと、借りたコートに袖を通した。
石田が着てた時はブカッとしてたのに、俺が着ると肩幅が丁度になる。細いな石田。
一息つき、改めて石田を見ると・・・・・・・・・・・・・・・ええと、何だ?可哀想か?俺!
そんなにお気の毒か?!
何でそんな憐憫の眼差しで見る??俺どんなリアクション取ったらいいんだよ!!
「・・・・・・・石田?」
「もう落ち着いたかい?」
未だかつて無く優しい声音で労われ、落ち着く所か気持ち悪いです。いっそ罵倒してくれ。
違うだろ?そんなタマじゃないよなお前!
男に目の前で勃起されて黙ってる奴じゃないだろ───っ!
何でそんな、お前のが落ち着いてんだよ!
お前本物の石田か?偽もんじゃねーよな?中にカリスマ主婦入ってねーか?
それとも夢オチ・・・・・・・・?
全部ぶちまけて訊き質してぇ・・・・・・・・・しかし迂闊な事も言えず、俺は慎重に言葉を選ぶ。
「・・・・・・・ああ。その、一駅、損させちまって悪かったな」
「大丈夫。それは君から徴収するよ」
おお、いつもの石田だ。夢ではなさそうだ。
「でも意外だったよ。性的な事には余り興味の無い素振りを、学校では通してるのにね」
健全な男子高校生たるもの、興味が無い訳はないが・・・・確かに自分は他と比べても淡白な方だと思う。
いや思ってた。さっきまでは。石田に感じちまうまでは。
普段隠されてた何もかもが暴かれたような錯覚がして、気を抜くとむしゃぶりつきたい衝動に駆られて、自分突っ込みとかして高ぶりを逃がしてんだけど・・・・マジ、キツい。
眼鏡を取り払った素顔の石田が・・・・何か無防備で、堪らなくて・・・・・・・・・ハッ!眼鏡!!
「石田、眼鏡は探したか?」
「ここから探せる範囲ではね。無い。残骸も見当たらない」
「いや見えてんのか?眼鏡ないのに」
「実はよく見えない。さっきの、チャラにするから一緒に探して」
見えてないのに探してたのか?でもチャラにしてくれんなら頑張って探・・・・・・や、俺まだ半勃ちなんすけど・・・・・・・・・・・。借りたコート、前合わせてねーと歩けないっつの。
「もしかしたら空座町の駅で、ホームに蹴り出されたかもね。原形を留めてはいないだろうけど、一応探そう」
石田は言い様屈み込むと、まだ少し窮屈な車輌内を縫うように歩く・・・・・・・て、ちょっ!
ほんとに見えてないのか?フットワーク軽いぞ。
俺も人込みを掻き分けながら探すが、それらしいもんは見当たらない。
それでも懸命に探す俺の肩を、石田が叩く。
「もう次の駅に着く・・・・一旦降りようか」
「眼鏡、いいのか?」
「家に予備があるから取り敢えずは。出費は痛いけどしょうがな・・・・」
───ゴンッ!
うお!石田がいきなり手摺に顔をぶつけた・・・・鼻打たなかったか?
「おま、大丈夫かよ?」
「イタタ・・・・人は霊圧で判るから避けられるけど、それ以外は視認出来ないとちょっと・・・・・・・・」
ああ・・・・それで器用に歩けたのか。見えてねー筈なのに不思議だったが。
霊圧を避けて歩く・・・・・・・・・・・・・俺には無理だな。どうやんのか見当もつかねー。
それにしても・・・・。石田の奴、何でさっきの『アレ』について、怒ってねーんだ?
普通・・・・石田じゃなくても、もっとこう・・・・・・嫌悪感を露にする場面じゃね?
あんな寛容な姿、初めて見るぞ。
何か俺ばっかり、俺ひとりが石田の事で頭が一杯で、あいつはそうでもないのか?
結構・・・・・・・・驚く出来事だったと思うけど。いやあんま嫌悪を剥き出しにされても凹むけど。
もう少しリアクションくれよ。俺という存在に、興味ないのかよ・・・・・・・・・・。
「さっきの君の、破廉恥な行為についてだけど・・・・・・・・」
「──っ!!」
次の駅に到着し、ドアが開き、ホームへ出た時に石田が思い出したように話を戻し、俺は動揺の余りつんのめってしまった。
いや今破廉恥って言ったか?!そんな事言われたの生まれて初めてだぞ!
「井上さんに気付かれなくて良かったよ。彼女は大らかだから笑って許すかも知れないが・・・・・・」
「・・・・お、おお?」
井上?まあそうだな。気付かれたら無茶苦茶みっともないわ。
「でも、男の僕でもあんなに気色悪いのに、女の子にそれが向けられたらと思うと、可哀想だ・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・石田。言ってる意味が理解不能なのは、俺の所為か?
何の話だ?井上が絡んでるみたいだが、身に覚えがない。俺、井上に何かしたか?
女の子にそれが向けられたら・・・・てのは、さっきのアレか?
実際に向けられてたのはお前なんだけど??いや、マジ意味判んねー・・・・・。
「まあ・・・・僕も男だから、そういうシチュエーションでの生理現象は、致し方ないのは理解するけど・・・・」
しかも何か理解されてるっぽいんですけど・・・・・・・何が?ますますイミフメイだ。
「・・・・・・・・・ええと??」
「だから、井上さんの胸が君の左腕にくっついてたのが原因だったんだろ?」
「は?井上?何か当たってたか?」
うっかり口走ってから、自分の迂闊さに気付く。
そういや位置的に俺の左側、腕の辺りに井上の胸が当たってる。かも。
俺が興奮してた理由、それだと思われてたのか!成る程、そっちのが本来納得いくわな!
そんなら話に乗っかっとけ!!
「あ───っっ!ああっ!そう!胸!当たってたな!うん!当たってた!」
「・・・・・・・っ!ちょっと待て黒崎!何だ今の不穏当な発言は!違うのか?その事じゃ無かったのか?」
さっきの失言に石田が食い下がってくるが、押し切ってしまえ。
「いや──、若さ故の過ちっつの?俺、マジ、猛省してる!スンマセンッした───っ!」
「待て!待て待て黒崎!ちゃんと説明し・・・・・・・ていうか、その棒読みやめろっ!!」
言いながら石田がまた、目の前のゴミ箱に気付かずぶつかり掛けた。
俺は慌てて石田の腕を引く。
「何をする!」
「何って・・・・ゴミ箱にぶつかり掛けたから、引き寄せた」
石田がダストシュートを確認すると、俺を見た。俺というより霊圧か?
「それは、ありがとう。もう腕を放してくれ」
「大丈夫か?何か危なっかしいぞ?お前。家まで送って行こうか?」
「結構だ。一人で帰れる」
一人で帰していいもんなのか?視力がいくつか聞いてもどうせ俺には判らないけど、目の前の手摺やゴミ箱にぶつかりながら歩くのなら、俺、着いてった方がよくね?
「まあ・・・・取り合えず空座町まで戻ろうぜ。金は俺が払うんだろ?」
「冗談だよ。改札を出る訳じゃない。ホームから乗り換えるんだから」
あ・・・・そっか。気付かないくらい動転してた俺?
「それはともかく、腕を離せったら!」
「障害物たくさんあんぞ。俺が連行してってやるよ」
「連行って・・・・・・・何で?」
「行き先一緒じゃねーか」
「だからって何・・・・・・・・・くしゅっ!」
ああっ!コート借りっぱだった!!
「すまん!これ着てくれ!」
俺は自分のマウンテンパーカーを渡そうとした。
「はあ?嫌だよ、そんなどぎつい紫!普通僕のコートを返すべきだろ!」
拒否られた。でもこのコート、もう少し着てたい。シャンプーじゃない石田の匂いがすんだ。
もう変態でいいよ俺。
「着てみろよ?割りと似合うかも。新しい自分の発見と思って」
「そんな目新しい自分は一生見つからなくていいよ!ああもう、君は時々駄々ッ子のようだ。始末に負えないよ」
石田は嫌そうに俺のパーカーを受け取り、羽織った。
おお、結構どぎつい紫似合ってる。言ったら怒るかな?
「石田お前、それ、結構似合う」
「黙れ黒崎」
怒った。しかしこのパーカー、俺が着るとヤンキーなのに、こいつが着るとまるで違う服に見える。
育ちか?持って生まれた素養か?
「空座町へ行く電車、後どのくらいで来る?」
「・・・・・と、2分くらいか?」
「ここのホームでいいんだよね?」
「おう・・・・・・・・」
見えないのか。やっぱ一人で帰らせるの不安だな。
空座駅までは一緒だろうが、そっから家までどうやってついて行こうか。
俺、全然警戒されてないトコ見ると、さっきの・・・・・自分には関係ないと思ってんな石田の奴。
バレてないのはホッとするが、露ほども意識されてないのは悔しいぞ。
ま、警戒されてたら送ってくどころじゃねーけどな。
電車が入って来る。
さっきまで一人で電車に揺られてた自分が今は遠く感じるくらい、俺はこいつを意識している。
覚えたての何かを上手く表現出来ずに、喉にその何かを引っ掛けたまま成す術もない。
本来なら忘れてしまいたい事態の筈なのに、無理みたいだ。
石田に触れたいと思う俺の気持ちを、俺はどう受け止めるべきか。
帰りの道すがら、考えよう。
目の前のドアが開き石田が車内に飲み込まれ、俺はその後を追った。
終わる・・・・
100
!!祝えてない・・・・・・・・・・