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ゼロ距離
「あれぇ~、石田君?こんな所で会うなんて珍しいね。偶然偶然♪」
5番線のホームの中、電車待ちをしていた石田雨竜に声をかけて来たのは、クラスメイトで同じ手芸部の井上織姫だった。
「ホント、偶然だね・・・・。僕はこの辺に新しくオープンした『ヒマワリソーイング』の品揃えを見に来たんだ。もう帰る処だけど」
「あ、じゃ同じ電車だ。降りるのも空座町だから一緒だね」
邪気の無い笑顔を向けて来る織姫は、無愛想な自分に対し他の友達に接するのと比べても差別がなく、選り好みの激しい雨竜にはとても好感の持てる女子だった。
取留めのない話をしていても、緊張感を持たなくていい相手だ。そして僅かに、楽しい。
「・・・・でね、自分では今までに無い力作だと思ったのに、結局誰も食べてくれなくて・・・・・・あ、電車入って来たみたいだね」
5番ホームに電車が到着した。
まだ緩々と動いていたが、前から3両目にいる莫迦みたいに煩い霊圧の持主に気付き、さり気なく違う車輌に誘おうとした雨竜を織姫の柔らかな二の腕が、思いの外力強くガッチリと捉まえた。
「石田君!前から3番目の車輌に黒崎君がいるよ?行こ!!」
織姫も霊圧で察知したらしく、グイグイと引張られる。
「いや!僕はここでいいから。井上さんだけ行っ・・・・・・」
「ああ!急いで石田君!ドアが閉まっちゃう!!」
殆んど何ら抵抗出来ないまま、雨竜は件の車輌に押し込められた。
「間に合った~!んん?何か言った?石田君」
「・・・・・・・・・何でもないよ井上さん」
眼鏡を押し上げ、心持ち身構えて辺りを見渡す。
座るスペースが全て埋まっているくらいには、車内は混んでいた。
「黒崎君!」
弾んだ声を上げ死神代行へと近づく織姫に、左腕をホールドされたままの雨竜は行きたくない方向へと引き摺られた。
「お?おう。お前ら・・・・・・・井上と・・・・石田?何?デート?付き合ってんのか?」
二人に気付いた霊圧ダダ漏れ死神代行・黒崎一護の短絡的な物言いに、雨竜はすかさず反論する。
「男女が二人で電車に乗っていたからと言って、付き合ってるとは限らない。想像力がないのか?君は」
「石田君とはねぇー、ホームでばったり会ったんだよ?奇遇奇遇♪黒崎君とも会えるなんて凄い偶然!奇遇3乗だね!」
折角辛辣に返したというのに、織姫のほんわかとした台詞でオブラートに包まれてしまう。
そしてそのまま何となく屯する形になる。不本意だ。
「黒崎君は何でこの電車に乗ってたの?」
「あー…アクセ見に来た。新作が入荷したっつーから」
「そっか~。あたしはランジェ買いに出て来たの」
「ラン…?」
「ランジェリー。最近ブラがちっちゃくなっちゃって」
「ちっちゃ・・・・・・・、井上!」
「何?黒崎君」
真っ赤になってうろたえている一護と判っていない織姫に背を向け、雨竜は自身の赤面した顔を隠した。
どうも彼女には周囲の異性を意識して会話するという配慮に欠けているようだ。
「おまっ、お前は何でいんだよ石田!」
織姫との遣り取りに瞬時に匙を投げた一護は、矛先を雨竜に向けて来る。
「言われ方が心外だ。僕が何時、何処で、何をして君と同じ電車に乗っていようが関係ないだろ黒崎一護」
「石田君は『ヒマワリソーイング』の帰りなんだって」
・・・・台無しだよ井上さん。そうは思うがひまわりのような笑顔を全開にされては、雨竜は黙るしかない。
「うわぁ・・・・・・石田お前、一般的な男子高校生から、ことごとく規格外だな」
「黒崎。何をして一般とそうでない者を区別するのかな?明確な応えを是非ご高説賜りたいね」
眉間の皺を二割増しにして言って来た一護にイラッとし、雨竜は眉間の皺を四割増しにして返す。
「お前、こないだ遊子とスーパーで会った時、タイムセールの卵1パック28円を買おうとしたの、止めたんだってな。この手の卵は本当に質が悪く、栄養摂取が目的なら通常の値段の物が良いってな」
「ああ・・・・そんな事言ったかな?スーパーの店員は熟知してるから28円の卵は買わないらしいよ。栄養が殆んど取れないから」
「遊子の奴、そんな情報をナチュラルに提供出来る石田さんて凄い…とか尊敬してたぞお前の事」
「そんな、大した事じゃないよ」
「いや照れるトコ違うから。それ男子高校生の知識じゃねえだろ」
「何でさ?どんな事でも知らないより知ってた方が、後々役に立つ事もあるだろう?実際にこれらの情報は今、僕には反映してるし」
「そういう処が規格外だっての。まあ…石田の場合事情があんだろうから、悪い意味で言ってる訳じゃねえけどよ」
確かに自分が他のクラスメイトから見れば所帯染みてるのは否めないが、一人暮らしを始めればそれは自ずと常識になる。
「へえぇ、石田君てモッノ知り~!あたしも一人暮らしだから反映させていただきます!」
静かに耳を傾けていた織姫が、唐突に言う。そう言えば二人とも一人暮らしの今時の高校生だった。
2対1では自分の方が規格外のように思え、更に二人とも、携帯電話を所持していない事を一護は思い出す。
親の方針で持ってない高校生(自分だ)もいるにはいるが、二人は違う。特に織姫は護身の意味でも必要だ。
特殊な力を使えるにしても、取り敢えず携帯しといた方が無難だろう。
言ってる自分が嫌な奴に思えて来て、一護は素直に謝る。
「悪ィ、石田、井上。お前らの場合一人暮らしだから、色々あんだろ…とやかく言って済まなかった」
「え?何?話が見えないよ黒崎君??」
「そ・・・・・・・・・・」
プシュウウゥゥ・・・・・・・・・・。
会話の途中で開いた出入り口から人の波が雪崩れ込み、ドア側に立っていた3人は奥へと流された。
咄嗟に男二人で織姫を庇ったため、流されつつも離れずに済んだが・・・・。
「わぁ!びっくりした!凄い人だね・・・・何かイベントでもあったのかな??」
「どうだろう・・・・大丈夫?井上さん」
「あたしは平気・・・・」
「いや人の心配してる場合か?石田。眼鏡どうした?」
「あ・・・・・・・・・・」
一護に指摘され、雨竜は視界が薄らボンヤリしている事に気付く。
どうやら人波に押されて眼鏡を落としてしまったらしい。
みっしりと人を詰め込んだ車輌内で眼鏡を探すのは困難な上、また無事な姿で戻るとも思えず雨竜は諦めと共に息を吐き・・・・・・・・
そうして、沈黙が訪れる。
会話は途中だったが特に続けたい内容でもなく、寧ろ断ち切られて一護は安堵していた。
それよりも今は・・・・眼鏡をかけていない雨竜の顔を見つめるのに、何故か懸命になっている。
真正面から密着しているので、見るなと言っても無理からぬ話だ。
『頭部ちっせぇ。顔も小顔だし・・・・睫長いな。眼鏡で普段隠れてて見えなかった。肌白いのは見るからにだけど、木目細か!髪もサラッサラで、どっちも絹みてえー・・・・。触ったら不味いかな?いやぶん殴られそうだ・・・・・・・・』
健全なる男子高校生が男子高校生に抱く感想ではなく、自覚出来るくらい不埒な考えを一護は持て余した。
一方雨竜は徒歩通学の為、普段遭遇した事のないような満員電車に辟易としていた。
どうしてこれで圧死する人が出ないんだろう。と思う。マジ思う。
何しろ両腕が何某かで固定されていて、微動だに出来ない。今虚が出たら一溜まりもないだろう。
黒崎が死神の姿になれれば、周囲の目に映る事無く虚を撃退出来るが・・・・恐らく彼も動けないに違いない。
頼みは井上さんの盾舜六花だけか。そう思えば割りと使い勝手が良いのかも知れない。
静かな車内でそんな思考に没頭していると、雨竜はフト、違和感を覚えた。
余り言葉にしたくない箇所に、何か当たっている。
井上さんの鞄・・・・・・は違う。僕の体からは遠い位置に垣間見える。
黒崎は・・・・手ぶらだった。右手は吊革を握り、左手は井上さんの方へ下ろしている。何だろう?
周りにおかしな様子はないし・・・・・・・・・・。
雨竜は流していた視線をゆっくりと戻し、前を見据えた。すると。
真っ赤な顔をして俯いている死神代行に、やっと気付いた。
『こいつかーっ!これ!ちょっ、勃・・・・・・・勃ってるのか?!何でだ!!』
いや気付きたくなかったと云うか・・・・・・・・・・この状況をどうしろと!
何だ!何があった?!君は一体何をとち狂ったんだ黒崎一護!!
男子高校生の車内での生理現象といえば、エロ週刊誌の吊広告とか、密着した女子大生やOLの香水の匂いとかだろうか。
しかし思いあたる人も物も無く、雨竜はもう一度一護の様子をマジマジと見た。
伏せた目の表情からすると、態とでは無いのが判る。申し訳無さそうにしている。
こちらを見ようとしない一護に目で訴える事も出来ず、途方に暮れ、雨竜は視線を何気なく織姫へと向けた。
そこでようやく原因が発覚した。と雨竜は思った。
井上織姫の胸が、黒崎一護の左腕にこれでもかと密着していた。
織姫本人はスルーだが、多感なお年頃の青少年にしてみればラッキーな事この上ない。
「あ…と。良かった!ドアが開くのさっきの所じゃなくて、直ぐそこみたい。降りれそう。次、空座町だよ?」
『『ヤバイッ!!』』
織姫の促しに、二人同時にそう思った。
別に雨竜がそう思う謂れは無いが、こんなみっともない状態の一護を放置するのは、同じ男として余りにも忍びない。
「ごめん、井上さん。僕は少し黒崎に話があるんだ。先に降りてくれる?送ってあげられなくて残念だけど・・・・・・・」
「あれ?そうなんだ・・・・うん、判った。じゃ、明日学校でね」
「ああ、またね」
「・・・・・・・・・・・っ」
一護は声を出さず、目を合わせ軽く手を振っただけだった。
流石に織姫も少し訝しげな表情を見せたが、音を立てて閉まったドアがそれを遮断した。
電車が動き出すと同時に雨竜は着ていたコートを脱ぎ、一護に着るよう促す。
人が幾分吐き出され、ある程度自由に動けるスペースは確保出来た。
「悪ィ・・・・・・・」
一護は素直にそれを受け取り、袖を通して雨竜を見た。
そこで初めて気付いた。自分が痴漢行為を働いてしまった筈の男に、甚く同情的な眼差しを向けられている事に・・・・・。
「・・・・・・・石田?」
「もう落ち着いたかい?」
優しげな声で問われ、一護はもの凄く気持ち悪くなった。
違うだろ?そんなタマじゃないよなお前!
男に目の前で勃起されて黙ってる奴じゃないだろ───っ!
しかし迂闊な事も言えず、一護は慎重に言葉を選ぶ。
「・・・・・・・ああ。その、一駅、損させちまって悪かったな」
「大丈夫。それは君から徴収するよ」
おお、いつもの石田だ。夢ではなさそうだ。
「でも意外だったよ。性的な事には余り興味の無い素振りを、学校では通してるのにね」
いや・・・・正直さっきまで、石田とゼロ距離で向かい合うまでは、自分は淡白な方だと思っていた。
眼鏡を取り払った素顔の石田が・・・・何か無防備で、堪らなくて・・・・・・・・・・・・・・ハッ!眼鏡!!
「石田、眼鏡は探したか?」
「ここから探せる範囲ではね。無い。残骸も見当たらない」
「いや見えてんのか?眼鏡ないのに」
「実はよく見えない。さっきの、チャラにするから一緒に探して」
や、俺まだ半勃ちなんすけど・・・・・・・。借りたコート、前合わせてねーと歩けないっつの。
「もしかしたら空座町の駅で、ホームに蹴り出されたかもね。原形を留めてはいないだろうけど、一応探そう」
雨竜は言い様屈み込むと、まだ少し窮屈な車輌内を縫うように歩く。
一護も人を掻き分けながら隈なく探すが・・・・・・・結局眼鏡は見つからなかった。
「もう次の駅に着く・・・・一旦降りようか」
「眼鏡、いいのか?」
「家に予備があるから取り敢えずは。出費は痛いけどしょうがな・・・・」
───ゴンッ!
言いながら歩き出した時、雨竜は目の前の手摺で鼻を打った。
「おま、大丈夫かよ?」
「イタタ・・・・・人は霊圧で判るから避けられるけど、それ以外は視認出来ないとちょっと・・・・・・・・」
ああ・・・・それで器用に歩けたのか。見えねー筈なのに不思議だったが。
それにしても・・・・。石田の奴、何でさっきの『アレ』について、怒ってねーんだ?
普通・・・・・石田じゃなくても、もっとこう・・・・・・・・嫌悪を露にする場面じゃね?
あんな寛容な姿、初めて見るぞ。
「さっきの君の、破廉恥な行為についてだけど・・・・・・・・」
「──っ!!」
あれこれ考え中に話を本人からぶり返され、何も無い所でつんのめるくらい一護は慌てふためいた。
「井上さんに気付かれなくて良かったよ。彼女は大らかだから笑って許すかも知れないが・・・・・」
「・・・・お、おお?」
「でも、男の僕でもあんなに気色悪いのに、女の子にそれが向けられたらと思うと、可哀想だ・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・石田。言ってる意味が理解不能なのは、俺の所為か?
何の話だ?井上が絡んでるみたいだが、身に覚えが無い。俺、井上に何かしたか?
「まあ・・・・僕も男だから、そういうシチュエーションでの生理現象は、致し方ないのは理解するけど・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ええと??」
「だから、井上さんの胸が君の左腕にくっついてたのが原因だったんだろ?」
「は?井上?何か当たってたか?」
「えっっ!!」
双方、見つめあったまま絶句して固まった。
しかし一瞬早く失言に気付いた一護が、無理やり雨竜の言葉に乗っかった。
「あ───っっ!ああっ!そう!胸!当たってたな!うん!当たってた!」
「・・・・・・・・っ!ちょっと待て黒崎!何だ今の不穏当な発言は!違うのか?その事じゃ無かったのか?」
「いや──、若さ故の過ちっつの?俺、マジ、猛省してる!スンマセンッした───っ!」
「待て!待て待て黒崎!!ちゃんと説明し・・・・・・・・ていうか、その棒読みやめろっ!!」
そんな遣り取りを繰り返しながら、ドサクサに紛れ眼鏡無しの危なっかしい雨竜を無事アパートまで送り届けるのに成功した。
翌日。
教室で井上織姫がイの一番に雨竜の元へ駆けつけて来て・・・・・
「はい!石田君、眼鏡。何とあの後、あたしの鞄の中から発見しました!拍子でスポッと入っちゃったみたい。見つかって良かったね!」
と、石田雨竜を喜ばせつつも、複雑な面持ちにもしたのだった。
終わりました!
後書
新年から発情してる一護を書くのはどうかと思いながら、書いちゃいました
誤字脱字があったらスミマセンお話の中の穴はスルーの方向で
うおいっ!
あ、『初一雨!』は新年の意味ではありません。初めて書いたんですお恥ずかしい…
後書
新年から発情してる一護を書くのはどうかと思いながら、書いちゃいました
誤字脱字があったらスミマセンお話の中の穴はスルーの方向で
うおいっ!
あ、『初一雨!』は新年の意味ではありません。初めて書いたんですお恥ずかしい…