一雨SS White Day ※「君の知らないチョコレート」を読んでからどうぞ。 一雨SS 2009年03月11日 ■ ■ ■ Boys Don't Cry ■ ■ ■ □ □ 一護視点 □ □ 「はい、お兄ちゃん。こっちが織姫ちゃんの分。こっちが石田さんの分ね?」 「おお・・・・・・・・・お?」 何が? 「織姫ちゃんにはマフィン。石田さんへはあたしからブラウニー。夏梨ちゃんからはクッキーだから、今日学校に着いたらちゃんと渡してね?」 ラッピングされた菓子にはちまっとした英文字で 『White Day 』 と書いてある。 あ─ ・・・・・・・・・。 あれからもう一ヶ月たったのか。 先月のバレンタインディ。 俺は石田が作った半端なく旨いチョコレートが欲しくて、石田んちまで取りに行った。 部屋には上げてもらえず玄関先で帰されたが、その代わり遊子と夏梨の分も用意してくれたし、何より来年の約束を取り付けたので、割りと上機嫌で家路につく。 石田のチョコは妹2人も大絶賛だった。 こいつはあん時のお返しか。珍しく夏梨も一緒にキッチンで何かやってるなと思ったら。 「ああっ!!ごめん!お兄ちゃん!!」 あ?今度は何だ? 「お兄ちゃんの分、作るの忘れた!!」 「は?俺の分?」 「お兄ちゃんの分の、石田さんへのお返し、用意してないの。忘れたの」 「いや・・・・・・別に石田も、俺からの返しはいらねえと思うけど?」 「そんな訳にはいかないよ!お兄ちゃんが貰って来たんじゃない」 それはそうか?しかし俺からだっつって、あいつが喜ぶか? ・・・・・・・多分喜ぶな。 洗剤とか、ティッシュペーパーとか。何か生活に密着したやつ。 でもまあ昼飯奢んのが一番手っ取り早いか? 「わーった。俺から適当に返しとく」 「適当って・・・洗剤とかトイレットペーパーとかはNGだからね?」 うおっ、何で分かった? 「・・・駄目なのか?」 「バレンタインのチョコのお返しに、そんなロマンチックの欠片もない物、喜ばれないよ!」 いや十分喜ぶと思うけど・・・・・・・・待て! 何で石田への返しにロマンチックが必要なんだ? 「絶対何か、石田さんが好きそうな可愛い物、用意してね?」 俺は可愛いもんを選ぶセンスないぞ。 いやいやその前に遊子、お前石田の性別間違えてないか? 「石田さんは手芸部の部長さんなんでしょ?気合入れて探してね!」 ・・・・・・・・・・・あれ?可愛い物で合ってんのか?? 釈然としないながらも、俺は取り敢えず妹手作りの菓子を鞄に入れ、登校した。 「黒崎くん、おはよう」 教室に入ると井上が笑顔で挨拶を向ける。井上のはこっちの包みだったな。 「・・・はよ。これ、ホワイトディのお返し。遊子からだけど・・・・」 「わ・・・わあ!有り難う・・・・・・・可愛い包みだね?」 「中、マフィンつってた」 「やったぁ!嬉しい・・・。来年は遊子ちゃんと夏梨ちゃんの分も作・・・・・・・」 「い────からっっ!!気持ちだけで!!遊子と夏梨は無理だから!!」 「無理?何が無理なの?」 「い、い、石田?!おはよう!良い朝だな!!」 井上との会話に苦しくなり、俺はそそくさと石田に駆け寄った。 「おはよう、黒崎。朝から煩いな・・・何をテンパってる」 「やっ、気にすんな!これ、遊子と夏梨から!」 慌てて鞄から出そうとして夏梨のクッキーを取り落としかけたが、石田が素早くキャッチする。 「何?何で僕に?」 「先月のお前のチョコ、二人ともすげ気に入ったみたいで、お礼だってよ」 「そう。お気に召して貰えたなら嬉しいよ」 あ?今ちっと表情が柔らかくなったか? 「俺も・・・お前のチョコ、すげェ好きだぜ?」 「君はもう少し歳相応の遠慮を身につけろ。僕は迷惑だ」 うわぁ・・・何つー嫌そうな顔。何なんだこの落差は?腹立たしいぞ。 「あー・・・、こっちのクッキーが夏梨で、ブラウニーが遊子からだ・・・・・と、それはそうとして、石田」 「何?」 「昼は俺と飯、一緒しね?奢るし・・・・・・・」 「今日は土曜日だけど?昨日なら存分に奢られてやったのに、残念だ。」 ああーっ!しまった!土曜か??そういや俺も弁当持ってきてねーじゃん・・・・・迂闊。 どうすっかな。 当初の予定通り、洗剤とかにしとくか?遊子には怒られるだろうけど。 や、買いに行くのも面倒臭ェし、ストレートに聞いとくか。遊子への言い訳も立つし。 「お前、何か欲しいモンあるか?」 「何で?」 「いや・・・。ホワイトディのお返しをだな・・・・・・・その、お前・・・・」 「バレンタインの遣り取りを、君となんかしたくないよ。気色悪い」 「きしょ・・・・・・おま!ちょ、言い過ぎだろ?」 「それは悪かった。君、ほんと恐い顔のわりにナイーブだよね」 ・・・・・・謝られた気がしねぇ。 「欲しいもんないのか?ないなら・・・・・・」 やっぱ洗剤か? 「欲しいものというより、君に頼みたい事ならあるよ?」 「頼み?恐ェな・・・・・・何だよ?」 「霊圧を抑えるのをいい加減覚えて欲しい。君と擦れ違う度にドップラー効果を思い出して、うんざりするんだけど。君、サーキット並に煩いよ?」 「悪っ。それ以外で頼む」 「即答!?君今、一瞬も考えなかったろ!!」 「や・・・・・・無理?」 「君には向上心というものがないのか?本来それは最優先事項だぞ!!」 そんな事言われてもなぁ・・・・・・実は普段からやってんだよ。 精一杯やってこれだなんて石田に知れたら、どんだけ呆れた顔をされっか想像つくので黙っとく。 「遊子のやつがちゃんとお礼しとけって、煩いんだよ。他に何かねえのか?」 「じゃあ君の気持ちを貰っとく。有り難う。もう直ぐ本鈴が鳴るぞ、席に着け」 「あのなぁ・・・何でんな追っ払うような態度なんだ?」 「追い払ってるんだよ」 「てめ・・・・・・・・・・」 「おらー、お前たち、席に着けー」 いよいよ限界に達した俺の怒気を、本鈴と共に入って来た担任の越智の声に掻き消された。 くそ!くそくそくそ!! 意地でも何かくれてやる!見てろよ石田・・・・・・ぜってーギャフンと言わせてやっから! あ?何か趣旨違ってねえか?まーいいや。 しっかし俺、ギャフンと言わせよーにも石田の事、何にも知らねーんだな? 好きなもんとか、嫌いなもんとか、得意分野、苦手なもん・・・・・まず石田と会話しないし。 ぱっと見、何処にでもいるような、特に目立ちもしない普通の奴だよな? 中身は常識をとんでもなく逸脱してっけど。生身で飛簾脚なんざあり得ねえだろ。 あれ?ひょっとして俺、あいつと生身で喧嘩すっと勝てねえ?? ・・・・・・・・代行証、肌身離さず持っとこ。 あいつは手芸部だから、可愛い系は寧ろ避けるべきだよな?変なもん用意してあいつに失笑なんぞされたら、ぜってー我慢できね。 俺が貰って嬉しいものは、間違いなく石田の趣味じゃねえだろうし。うぜえな畜生。 「石田、122ページから読め」 「はい」 おっと・・・・・・やべ。授業中にガン見し過ぎだろ俺。 「その野は いつまでもいつまでも 窓の外につづいた 海のようだった。 近く遠くところどころに 誘蛾灯が光っていた。またたきもなく。 ああそれらの誘蛾灯の 鮮烈な一つの灯と灯のあいだは なんと大きな暗い空間だったろう。 かかる美麗なる暗黒を はじめて見た。」 石田の声は、好きだ。 透明感のある、バイオリンの音のようで、何ら抵抗感無くすんなり耳に入ってくる。 そして耳の奥を擽り、その刺激が胸まで伝い、気持ちの良い余韻が広がって・・・残る。 最近は少しだけ人当たりが良くなり、ツンドラ気候から冬の日差しくらいには暖かくなった。 なのにどうして俺と話す時は、あんなにつれないんだ? 死神嫌いのくせに、ルキアと話す口調はマイルドだぞ・・・・・・・・・納得いかねえ。 そういやあいつと一緒に行動する時は大抵殺伐としてて、嗜好について語り合う空気じゃなかったな。 石田の好きなものとか、嫌いなものとか、俺、知りたいかも・・・・・・・。 あいつが普段なにしてるのかとか・・・・・・いや、それは容易に想像つくけど、ある意味謎だ。 石田に何をやったら喜ぶのか、見当もつかない。 だからあいつが嬉しそうな顔したら、俺の勝ちにする。つか見てえ。 俺に向ける表情の半分くらいは嫌そうな顔だよな。ちっとは笑えっつーの。 たまには俺にも笑いかけてみろよ。 それって石田を喜ばせるってより、俺が嬉しいのか?もしかして・・・・・・・・。 いつも俺以外に笑いかける石田の柔らかい物腰を思い出し、俺はちょっとだけ切なくなった。 2へ続きます ◆次は石田視点になります ^^ [1回]PR [1回]PR" dc:identifier="http://snow9614.blog.shinobi.jp/%E4%B8%80%E9%9B%A8%EF%BD%93%EF%BD%93/%E4%B8%80%E9%9B%A8%EF%BD%93%EF%BD%93%20%EF%BD%97%EF%BD%88%EF%BD%89%EF%BD%94%EF%BD%85%20day%20%E2%80%BB%E3%80%8C%E5%90%9B%E3%81%AE%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%E3%80%8D%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%9E%E3%80%82" /> -->